第84話 念じるだけで……

 金ちゃんたちを連れて、モルガネの都市の近いところまでやってきた。

 いったん地上に出てみる。


「あれがモルガネか」

「本当についてしまったでござる……こんな短時間で……」


 遠くにそれらしき都市が見えた。

 王都に次ぐ規模の大都市というだけあって、立派な城壁で護られている。


 そこからは歩いて向かい、城門を通って都市内に入った。


「道がぐちゃぐちゃしてて、王都よりも雑多な感じの街だな」


 統一性がまったくなく、後から継ぎ接ぎしたような建物が並んでいる。

 大通りですらグネグネ曲がっているし、路地はもっと入り組んでいそうだ。


「けど、かなり活気がある」

「交通の要衝にあって、昔から商売の盛んな都市らしいでござるよ」


 下町といった印象の街だな。

 もちろん王都にもそうした地域はあるが、この街は丸ごとこんな感じらしい。


「街中に壁があるぞ?」

「何度も都市を広げている関係で、街中に古い城壁がたくさんあるのです」

「へえ」


 メレンさんはこの街に来たことがあるそうだ。


「殺しの仕事で」

「そ、そうですか……」


 詳しいことは聞くまい。


「ええと、確かこの辺りのはずでござるが……。一応、事前に信頼のおける部下を派遣しておいたのでござるよ。支部にできそうな建物を押さえてくれているはずでござる。あっ、ここっぽいでござるな」


 その建物はこの雑多な街中にあって、比較的整った一帯にあった。

 どうやらここモルガネでは、高級ビジネス街といった感じの地域らしい。


 結構新しい建物だった。

 中に入ると、部下らしき男が驚いたように叫んだ。


「商会長!? なぜこちらに!?」

「ちょっと軽く視察に来たでござるよ」

「おっしゃっていただければ、出迎えに参りましたのに!?」

「それには及ばぬでござるよ。それより、地下倉庫はあるでござるか?」

「ええ、もちろんです! ご要望通り、地下倉庫のある建物を選びましたので!」

「ご苦労でござる」


 相手は三十代半ばくらいだろうか。

 商会長なのだから当然といえば当然だが、年上からこんな低姿勢で応対されるなんて、なんだか不思議な感じだ。


 ……まぁ、金ちゃんは貫禄があるから、同年代くらいに見えてしまうが。


「ところで商会長、今は寿司店用の物件を探しているところなのですが……一体どうやってこの街まで食材を運んでくるのですか……? てっきりこちらでは日持ちのする食材や、加工品などを販売するのかと思っていたのですが、魚となるとさすがに……」

「その心配はないでござるよ。ものの数時間ほどで、ここまで運べる手段があるでござる。それなら食材を凍らせておけば、十分に鮮度も保てるでござるよ」

「そ、そんな方法がっ……?」

「詳しいことは明かせぬでござるが……とりあえず地下倉庫に案内してくれるでござるか?」

「はいっ!」


 そして地下倉庫へ降りてくると、部下の男性には退出してもらう。


 金ちゃんが一体どこから食材を仕入れているのか、商会の幹部たちにも教えていないという。

 食材はうちのイエティたちを利用し、夜明け前に地下の倉庫へと運び出しているそうだ。


「怪しまれたりはしないのか?」

「拙者のジョブによるものだと噂されているでござるよ。その方がむしろ好都合でござるから、あえて否定していないでござる」

「なるほど」


 頷きつつ、俺は地下倉庫の床を掘った。


「この硬い床を一瞬で……しかも今、掘る動作すらしなかったように見えたでござるが……?」

「ああ。もう念じるだけで掘れるようになったんだ」

「念じるだけで……」


 ガンガン掘り進めていく。


「以前より遥かにペースアップしていますね……」


 ある程度の深さまで掘ったら、今度は横方向へと掘っていった。

 そのまま真っ直ぐ掘り続けていくと、街の近くを通過していた俺のダンジョンにぶつかった。


「これで食材をダンジョン経由で運んでこれるでござるな」

「いや、わざわざ運んでくるより、こっちにも畑とかを作った方が早いだろ」

「え?」



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