第83話 俺は走った方が早いからな
従魔たちに穴掘りをしてもらうことで、俺は直線ルートでダンジョンを広げまくっていた。
この生活拠点を中心として、ちょうど時計の数字と同じように、均等に十二方向である。
「ちなみにその王国第二位の都市って?」
「アンテール公爵が治めるモルガネという都市でござるが……」
その名前には聞き覚えがあった。
この世界の地理がまったく分からなかったので、最近街で地図を買ってきたのである。
「時計で言うと、北を12時として、だいたい10時の方向か。街のすぐ近くを通っているはずだ。後は少し伸ばして、こっちみたいに商会の地下と繋げてしまえばいいだけだな」
「モルガネまでここから百キロ以上はあるでござるよ……? そこまでこのダンジョンが続いている……俄かには信じがたいのでござるが……」
「南はバルステ大樹海にまで到達してるぞ」
「バルステ大樹海!? 二百キロは南ではござらぬか!?」
ちなみにバルステ大樹海はおおよそ5時の方角だ。
「最近そこで一ノ瀬にも会ったぞ」
「一ノ瀬殿でござるかっ? ソロで冒険をしているとは聞いていたでござるが、それ以上の情報がまったくなくて、みんな気にしていたでござるよ」
「一応、元気そうにしていたぞ」
その一ノ瀬は恨めしそうにしつつも、ダンジョンを出ていった。
今はまたどこかで可愛いものでも探しているだろう。
「せっかくだし、今からモルガネまで行ってみるか?」
「そうするでござる。実はまだ一度も行ったことがないのでござるよ。現地視察をしておきたかったでござる」
「うちのマンガリッツァボアに乗っていくといいぞ」
正確にはマンガリッツァボアを進化させたグレートマンガリッツァボアだ。
全長は五メートルを超え、小型トラックにも勝る大きさである。
「ぶひぶひ」
「こ、これは豚の魔物でござるか?」
「いや、猪だぞ、一応」
秘書のメレンさんと一緒に、マンガリッツァボアの背中に乗る金ちゃん。
「丸夫殿は乗らぬでござるか?」
「ああ、俺は走った方が早いからな」
「走るって、百キロ以上あるのでござるよ……?」
樹海から二百キロ走って戻ってきたくらいだし、そのくらいは余裕である。
◇ ◇ ◇
私の名はメレン。
【暗殺者】のジョブを有する元犯罪奴隷で、今はキンノスケ様の秘書をしています。
今日はまたキンノスケのご友人であり、勇者でもあるマルオ様のダンジョンへとやってきています。
「(って、また強くなっているような……)」
マルオ様から感じられる強者の気配が、以前よりさらに増していることに気づいて、私は戦慄してしまいます。
しかもこの私では、もはやその実力を認識するのが難しいレベルにまで到達しておられるようです。
一体この短期間に何をされたというのでしょうか……。
驚かされたのはそれだけではありません。
というか、毎回ここに来るたびに驚かされているのですが……。
なんとこのダンジョン、王国北部の大都市モルガネや、南方のバルステ大樹海にまで続いているというのです。
「(それってもう、他国の領内にも入ってしまうのでは……?)」
国境を横断するように続くダンジョン。
しかもそれが王都の地下にまで直通しているのです。
万一その存在が公になったとしたら、国家間の紛争にも繋がりかねません。
「(か、考えたくもありませんね……)」
それから私たちは、視察のためにこのダンジョンを通ってモルガネに行くことになりました。
私はキンノスケ様と一緒に、マンガリッツァボアというやたらとモフモフな魔物に乗せられます。
毛がとても柔らかく、まるで高級ソファのような座り心地です。
横になって寝たらとても気持ちがよさそうですね。
「ぶひぶひっ!」
めちゃくちゃ速いんですけど!?
思っていた以上の速さで走り出したことに驚き、危うく漏らしてしまいそうになりました。
ただずっと直線なので、それほど揺れは気になりません。
「どうだ、金ちゃん? 意外と悪くない乗り心地だろ?」
それにしても……マルオ様がこの速度に余裕で付いてきているんですが?
この人、化け物ですかね?
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