第79話 という口実ってことだな?
「毎日ご飯が楽しみ。お肉も魚も野菜も果物も美味しい。だからどこにも行きたくないわ」
ミルカがはっきりと言う。
確かにうちのダンジョンで採れた食材は美味しいが、どうやら彼女にとってそれは故郷と天秤にかけても上回る魅力のようだ。
「わ、我らの里の食事も、決して負けていません! 樹海にしかないような食材を用いた、他では食べることもできないエルフの伝統料理もございます……っ!」
シャルフィアが張り合う。
「知らないけど、たぶん勝てないと思う」
「そ、そんなことはありませんっ!」
「食べてみたら?」
そんなわけで、なぜかシャルフィアをはじめとするエルフたちに、ダンジョン料理を振舞うことになった。
「というか、そもそもこの洞窟は何なのだ? マルオ殿が掘ったという話だったが……」
「そういや、まだ言ってなかったか。ここはダンジョンだぞ」
「ダンジョン!?」
「ただの洞窟に畑や果樹園なんてないだろ」
「ダンジョンにもないだろう!?」
料理を作ってくれるのはもちろん子供たちだ。
段々と手慣れてきていて、最近では料理の腕もかなり向上している。
非常に手際よく調理が進められ、すぐに良い匂いが漂ってきた。
「あの小さかったミルカ様が、料理を……」
「エルフ幼女のエキス入り手料理……じゅるり」
成長を実感して涙目になるシャルフィアに対し、邪まな想像をしている一ノ瀬。
よし、一ノ瀬には食べさせないようにしよう。
「できたわ」
あっという間に三品もの料理が完成し、テーブルの上に並べられた。
前菜のサラダとスープ、そしてメインは魚料理だ。
見た目も香りも美味しそうで、もはやお店で出てくるようなレベルである。
無論、どれもダンジョンで採れた食材を使っている。
「「「いただきます」」」
「ちょっと待て」
勝手に料理に手を付けようとした約三名の招かれざる客を、俺は制止した。
「アズ、エミリア、一ノ瀬。お前たちの分はないぞ」
「何でよ!?」
「どうしてですのっ!?」
「あんまりだ」
「エルフたちのために用意されたものだからだよ。ほら、あっち行ってろ」
三人娘を追い払う。
気を取り直して、エルフたちを各々の席へと促す。
「くっ……確かに美味そうだがっ……しかし、見たところどれも人族の料理っ……我らエルフの料理には、敵うはずがないっ……ぱくっ!」
威勢よく料理を口にするシャルフィア。
他のエルフたちもそれに続いた。
「「「うめええええええええええええええええええええええええええっ!?」」」
響き渡る絶叫。
それから彼らは品評することも忘れて、一心不乱に料理を貪り食った。
「……はっ!?」
シャルフィアが我に返ったのは、皿に付いていたソースすら完全に食べ尽くしてからのことだった。
「どうだった?」
「……」
ミルカの問いに、シャルティアはしばし沈黙してから、
「私もここに住むうううううううううううううううっ!!」
えっ!?
俺が驚いていると、シャルフィアは力説を始めた。
「ミルカ様があそこまでおっしゃるのなら仕方がない! それによく考えてみたら、里は先日の一件もあって色々と混乱している! あのクイーンタラントラのような魔物がまた里を襲う危険性がないかどうか、しっかりとした調査も必要だろうからな! そうでなければ、ミルカ様をお迎えすることもできぬ! ここはとても安全性も高そうだし、その意味で非常に安心だ! 無論、私は戦士長として、お傍でミルカ様を御守りするべきであろう!」
「なるほど。という口実ってことだな?」
「そそそ、そんなことないぞ!?」
明らかに図星だったようで、目を泳がせながら必死に否定するシャルフィア。
「というわけで、私もここに住む方向でよろしいですね、ミルカ様っ? 私が護衛として傍にいるという条件付きであれば、里の長老たちもきっとあなた様の意向を認めてくださるでしょう!」
「私はそれで構わないわ。故郷とトラブルになるのは面倒だし」
「ありがとうございます……っ!」
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