第77話 こんなに大きくなられて

「ぐごーぐごー」


 酔って豪快な鼾をかきながら眠ってしまったシャルフィアの代わりに、長老エルフが教えてくれた。


「ハイエルフは神話の時代に生きた、我らエルフの祖先でしてな。今の我々とは比較にもならないほど長寿で、高度な知能と技術を有しておったと言われておる。だがごくごく稀に、先祖返りというのか、ハイエルフとして生まれてくる赤子がいたのだ。我が里では数百年ぶりに誕生したその赤子が、ミルカ様であった」


 そのハイエルフの赤子は大切に育てられたという。

 だが数年後、この里にやってきた人族たちの手によって、彼女は攫われてしまったという。


「奴らを連れてきたのが流浪の同胞ということもあって、まんまと里に招き入れてしまったのだ。しかし同胞と思われたそやつも、人族が魔法で化けた姿であった。ミルカ様を奪われたことを知った我らは、必死に奴らを追ったが……」


 当時すでに戦士長であったシャルフィアも賊を追い、そしてあと一歩のところまで迫ったという。

 しかし敵の一人に返り討ちに遭って、大怪我を負ってしまったそうだ。


「以来、ずっと里から捜索隊を出し、ミルカ様を捜し続けてはおるが……その行方すら分かっておらぬ」


 長老エルフは大きく嘆息する。


「だがあの方はハイエルフ。エルフの神々の加護がある。きっと今もどこかで生きておられるはず」

「……なるほど」


 ハイエルフのミルカか……。

 なんていうか、結構心当たりがあるんだが。


「今はもう十歳になっておられるはず。我らエルフも、さらに長寿であるハイエルフも、二十歳頃までの成長の速さは人族とそう変わりはありませぬ。どんな小さなことでも構いませぬ。人族の街などでもしそれらしき情報を得ることができたなら、ぜひ教えてくだされ」

「めちゃくちゃ心当たりあるぞ」

「もっとも、人族の世界は広い……そう簡単にはいかぬとは重々承知して……え? 心当たりがある?」







 俺はエルフ一行を連れて、ダンジョン内を走っていた。

 向かう先はもちろん、生活拠点だ。


 エルフたちにはマンガリッツァボアの背中に乗ってもらっている。


 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!


「な、何なのだっ、このただひたすら真っ直ぐ続いているだけの地下道は!?」

「俺が掘ったんだ」

「これを!? うっ……二日酔いで、吐き気が……」


 青い顔で口を押えるシャルフィア。

 マンガリッツァボアが結構な速さで走っているからな。


「というか、何で貴殿はこの速さについてこれる!?」


 俺は普通に自力でそのマンガリッツァボアたちと併走していた。

 これでも結構、緩めのペースで走っているつもりなんだが。


「あなりん、もう着く?」


 ちなみに一ノ瀬も付いてきていた。

 エルフたち以上に鼻息が荒く、興奮している。


「見えてきたぞ」


 そうして生活拠点へと辿り着いた。

 いきなりエルフを連れてきたので、ソファでまったりしていたアズとエミリアが「な、何なの!?」「何ですの!?」と驚いている。


 一方のエルフたちも、ダンジョンの中に畑や果樹園があることに目を丸くしていた。


「な、なんだ、ここは……? 洞窟の中に野菜や果物が……」

「あっちには家畜がいるぞ!?」


 騒がしいエルフたちの声を聞きつけたのか、子供部屋から子供たちが出てきた。


「客かしら? 随分とうるさいけれど……」


 その中の一人、金髪碧眼でクールな少女、ミルカの姿を見つけた瞬間、エルフたちが一斉に叫んだ。


「「「ミルカ様!?」」」


 ……うん、やっぱりエルフの里からいなくなったというハイエルフのミルカは、うちのダンジョンに住みついた子供たちの一人、ミルカだったようだ。

 耳が尖ってるし、エルフっぽいなとは思っていたが……。


 先ほどまで二日酔いでぐったりしていたシャルフィアが、目を潤ませながら近づいていく。


「ああ……ご無事だったのですね、ミルカ様……こんなに大きくなられて……」


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