第76話 ハグしてくれてもハァハァ
里の中心にある広場に、全エルフたちが集まっていた。
その数、およそ二百人ほどだ。
俺と一ノ瀬は彼らに取り囲まれるような形で、全員の注目を一身に浴びている。
最初にこの里に来たときの、敵意に満ちたものではない。
尊敬と親愛の眼差しだった。
そんな中、一人のエルフが代表して口を開く。
「この度の魔物の侵入は、クイーンタラントラという魔物の仕業であった! 毒糸によって聖樹の力を奪い、さらに魔物を操り、この里へと送り込んできたのである! だがとある方々の手でクイーンタラントラは倒され、この里は救われた! その方々というのは、彼ら人族たちである!」
おおおおおおおおおおおっ、という大歓声が轟く。
「彼らが使役する魔物たちに助けられた者たちも多いだろう! そればかりか、驚くべき力で避難場所を作り出し、さらには上質な薬草を惜しげもなく恵んでくれたお陰で、あれほどの事態に遭いながら、被害がほとんど出なかった! 本当に感謝してもし切れぬ!」
そこで一ノ瀬が「彼らというか、全部あなりん」と小さく呟いた。
いや、一ノ瀬も頑張ったと思うぞ?
「貴殿らのような人族のことを、少しでも疑ってしまったことが恥ずかしい。本当に申し訳ない」
深々と頭を下げてくるそのエルフは、この里の長老だという。
人間でいうと八十歳くらいの印象だが、実年齢はなんと三百歳を超えているとか。
エルフは人間より遥かに長く生き、若い期間もずっと長いのである。
シャルフィアも二十歳くらいに見えたが、実は六十歳らしい。人間なら還暦だ。
ちょっと話が逸れたが、今回の活躍が認められたことで、当初の敵対的な対応とは一転。
俺たちはエルフたちに大歓迎されていた。
彼らの伝統料理が用意され、俺たちのために宴まで開いてくれたのである。
この里にとっては大変な事件だったが、結果的にはそのお陰でこうして迎え入れてもらえたのだから、俺たちとしてはクイーンタラントラ様様かもしれない。
「おねーちゃん、ありがと!」
「当然のことをしただけ。……ただ、どうしてもお礼をというなら、ハグしてくれてもハァハァ」
「おいやめろまた牢屋に入れられるだろ」
エルフ幼女に鼻息を荒くしている一ノ瀬の頭をひっぱたく。
「さあさあ二人とも、好きなだけ飲んでくれ! 我らの里の名物、マッドビーの蜂蜜酒だ!」
とそこへ、両手に木製のジョッキを手にしたシャルフィアがやってくる。
やたらとテンションが高いのは、お酒が入っているからだろう。
「あ、俺たち未成年だから飲めないんだ」
「お酒はダメ」
「飲めないのか!?」
そもそも海外に行ったら現地の法律が適用されるわけだし、異世界で日本の法律を守る必要なんてないだろうが、一応断っておく。
「そうか……貴殿らは飲まないか……」
シャルフィアがめちゃくちゃ残念がったが、どうやらそれは自分だけが飲むわけにはいかないと思ったからのようで、
「いや、別に遠慮せずに飲んでくれて構わないぞ」
「本当か? ならばお言葉に甘えて……」
ちなみにこの宴には、モフモフたちも参加していた。
ぜひ彼らもと、エルフ側から言ってきたのである。
「それにしても、貴殿が使役するあのモフモフの魔物たちは不思議だな? 聖樹が力を取り戻した後も、普通にこの里にいられるなんて」
と、疑問を口にするシャルフィア。
「言われてみればそうだな……?」
ダンジョンで作り出した魔物なので、普通の魔物とは違うのかもしれない。
それから本当に遠慮なくお酒をがんがん飲み進めたシャルフィアは、すっかり酔っぱらってしまった。
「私なんて、戦士長なのに、何にもできなかった……やはり私は無力だ……うぅぅ……」
「泣き上戸なのかよ」
精悍な女性戦士長というイメージが崩れていく。
「あのときだってそうだ……私は、ミルカ様を護ることができず……うぅぅ……」
「ん? ミルカ様?」
「我が里に、数百年ぶりに誕生されたハイエルフのミルカ様だ……五年ほど前、里に侵入してきた人族の賊どもに、彼女を奪われて……ああ、ミルカ様……今、一体どちらに……」
どこかで聞いた名前なんだが?
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