第73話 絶対に死ぬなよ
シャルフィアも戦う覚悟を決めたようだ。
「さっきのを見た感じ、恐らく俺たちの中で一番威力の高い攻撃がシャルフィアの矢だ。俺と一ノ瀬で奴らを引きつけるから、あいつの脳天に強烈なのをお見舞いしてやってくれ」
「了解だ。二人とも、本当に気を付けてくれ。もし無事に奴を倒すことができたなら、今度こそ里で歓待したい」
俺と一ノ瀬が危険な役割を買って出たからこそ、心配してくれているのだろうが、俺たちは最悪、死んでも生き返ることができるからな。
本当に命を大事にしてほしいのは、シャルフィアの方なのだ。
「ああ。……シャルフィアの方も、絶対に死ぬなよ」
「無論だ」
「行く」
一ノ瀬が勢いよく飛び出していく。
そして先制攻撃とばかりに、クイーンタラントラへ氷の雨を降らせた。
「ッ!?」
巨大な身体に降り注ぐ氷。
だが身体の表面で弾き返され、まったくダメージを受けていない。
いきなり攻撃を受けたにもかかわらず、悠然としているクイーンタラントラ。
代わりに周囲にいた蜘蛛たちが、自分たちの女王を守ろうと一斉に一ノ瀬目がけて殺到した。
「氷面」
一ノ瀬が周囲の地面を凍らせる。
蜘蛛は足元がつるつると滑って、なかなか彼女に近づくことができない。
そのときすでに、俺は逆方向からクイーンタラントラへと迫っていた。
その太い脚の一本に、近距離から穴掘り攻撃をお見舞いする。
「っ……やはり硬いな」
だが僅かにその表面を削れただけだ。
先ほど一ノ瀬が氷を降らせたときも、何か硬いものにぶつかったような音が響いていたし、もしかしたら蜘蛛のくせに、カニのような外骨格に覆われているのかもしれない。
「だとしたらこいつにダメージを与えるのは簡単じゃなさそうだぞ」
とそこへ、俺に気づいた子蜘蛛たちが襲い掛かってくる。
糸を網目状に放ってきたが、それに穴を掘ることで回避。
俺を拘束するのは不可能と判断したのか、今度は毒牙を剥き出し、次々と直接飛びかかってきた。
もちろん接近してきたら頭を掘って撃退できるのだが、さすがに数が多すぎる。
女王を守るためか、どうやら犠牲を覚悟して攻めてきているらしい。
四方八方から押し寄せてくる蜘蛛の集団に、もはや逃げ場もない――
「――地中以外はな」
俺は足元の地面を掘って、ひとまず地中に退避。
ある程度の深さまで行くと、今度は横方向に掘り進め、蜘蛛のスクラムから抜け出したところで、地上へと飛び出した。
「「「???」」」
急に俺がいなくなったので、蜘蛛は困惑している。
その無防備な背後を狙って、俺は次々と蜘蛛を仕留めていった。
一ノ瀬もまた蜘蛛の大群相手に奮闘していた。
先ほどより氷の地面の面積が増えていて、その上をフィギュアスケーターのように悠々と滑りながら、蜘蛛の攻撃を掻い潜りつつ確実に倒していく。
そのときである。
配下の蜘蛛たちだけでは排除できないと理解したのか、クイーンタラントラが動き出した。
その巨大さからは想像できない速さで、一ノ瀬に接近すると、長い脚をぶん回す。
「っ!」
すんでのところでそれを回避した一ノ瀬だったが、直後に別の脚が追撃してきた。
「……がっ」
強烈な一撃を喰らって、一ノ瀬が吹き飛ばされる。
そのまま背後の木の幹へと叩きつけられてしまった。
「一ノ瀬!」
慌てて駆け寄ろうとしたが、今度はクイーンタラントラのターゲットが俺に向いた。
機敏な動きで方向転換し、こっちに迫ってくる。
だがその前に、木の上からシャルティアの声が降ってきた。
「喰らうがいい……っ!」
直後、視認すら不可能な速度で、猛烈な風を纏う一本の矢が一直線にクイーンタラントラの頭へ。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
響く爆音。
吹き荒れる凄まじい暴風。
近くにいた俺は咄嗟に穴の中へと避難することで凌いだが、蜘蛛たちは次々と吹き飛ばされていった。
「一ノ瀬、大丈夫か?」
「大丈夫。ちょっと痛かったけど。……それより、やった?」
「だといいんだが……」
――――――――――――
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