第74話 ようこそ、俺のダンジョンへ
「やった?」
「だといいんだが……」
シャルフィアの渾身の矢がクイーンタラントラに直撃。
その余波だけで周囲の木々が薙ぎ倒されるほどの威力だった。
普通の魔物であれば一溜りもないだろうが、相手は危険度Aの魔物である。
決して油断はできない。
ようやく風が収まり、クイーンタラントラの姿が見えるようになった。
「アアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
そのとき突如として響いた耳障りな音。
それはクイーンタラントラの怒りの咆哮だったのかもしれない。
「っ……まだ生きてやがる!」
「……ちょっと頭が凹んだだけ」
一ノ瀬が言う通り、矢が当たったと思われる場所が、心なしか凹んでいる程度。
どうやらクイーンタラントラの硬い殻は、思っていた以上に高い防御力を持っていたらしい。
「さすが危険度A」
「感心してる場合かよ」
次の瞬間、クイーンタラントラが猛烈な勢いで糸を噴出させた。
あっという間に辺り一帯が糸の海と化していく。
「木が枯れていく……っ!」
「こいつに触れたらヤバそうだな!」
俺と一ノ瀬は慌てて距離を取って、その糸から逃げようとする。
「っ!? 何だ、身体に絡まって……」
「糸?」
だが逃げた先で俺たちを待ち構えていたのは、見えない糸だった。
「こんな糸まで用意できるのよ」
どうやらあらかじめ、俺たちの逃げ道を塞ぐように糸を張り巡らせていたらしい。
最初なぜか傍観しているだけでまったく動かないと思っていたが、恐らくその間に秘かに準備していたのだろう。
「蜘蛛のくせに、用意周到。でも、見えなくても関係ない」
一ノ瀬が例のごとく糸を凍らせようとする。
「……おかしい? 魔法が……それに、力が……」
しかし一ノ瀬の目の焦点がブレてきたかと思うと、足に力が入らなくなったのか、よろめいてしまう。
それと似たような現象は俺にも起こっていた。
目の焦点が合わず、下手をすれば意識が飛びそうになる。
「……マズいな、毒だ」
この見えない糸にも毒があったのだろう。
恐らくはシャルフィアが言っていた催眠性の毒だ。
「がっ……」
そのシャルフィアも糸に捕まってしまったようで、木の上から落ちてきた。
二人には毒消し草を渡していたが、糸が腕に絡みついているせいで、それを使うこともできないようだ。
俺は必死に意識を保ちながら、念じ掘りで糸の一部を切断していくと、どうにか自由になった右手で毒消し草を口の中へと放り込んだ。
凄まじい苦みが口いっぱいに広がる。
だが同時に眠気が覚めたように、意識がはっきりしてきた。
そのまま全身に絡みつく糸を掘って拘束から逃れると、さらに地面を掘って、ひとまず地中へと避難する。
「……どうしたものか。一ノ瀬もシャルフィアも糸にやられてしまったし、残ったのは俺一人だけ……」
さすがは危険度Aの魔物だ。
やはり戦いを挑むにはまだ早かったようである。
正直言って、勝てる気がしない。
――地上ではな。
「だったら奴を俺のフィールドに引き摺り込んでやるぜ……っ!」
俺は頭上を掘って掘って掘って掘って掘って掘って掘って掘って掘って掘って掘って掘って掘って掘って掘って掘って掘って掘って掘りまくっていった。
――スキル〈高速掘り〉が進化し、スキル〈爆速掘り〉になりました。
――スキル〈三連掘り〉を獲得しました。
――スキル〈マルチ掘り〉を獲得しました。
やがて頭上にあった、十メートル四方ほどの土がすべて消失。
代わりに見えてきたのは、クイーンタラントラの腹側だ。
「~~~~~~ッ!?」
足場を失ったクイーンタラントラは、当然ながら俺のいる穴の底まで落下してくる。
ドオオオオオオオオンッ!!
穴の底に叩きつけられ、一体何が起こったのかと困惑しているクイーンタラントラへ、俺は歓迎の気持ちを込めて告げた。
「ようこそ、俺のダンジョンへ」
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