第70話 簡易的な避難所だ
「何だ、あのモフモフの魔物たちは!? まさか新手かっ!?」
「いや、樹海の魔物と戦っているぞ!? しかもこちらを攻撃してはこない……っ!」
「もしかして味方なのか!?」
俺の命令通り樹海の魔物を倒してくれている従魔たちに、エルフの戦士たちが困惑している。
「おっ、怪我人だな」
倒れて動けなくなっているエルフを発見して、俺は近づいていく。
「大丈夫か?」
「っ!? 人族っ? 牢屋から脱走したのか!?」
「足を負傷して動けないのか? よし、運ぶぞ」
「なっ!? やめろ!? 私に気安く触るなっ!」
「おいおい、暴れるなって」
「急に穴が!? って、うあああああああああああっ!?」
俺は目の前に穴を掘ると、そのエルフを抱えたまま穴の中へと飛び込んだ。
ダンジョンの地面に着地し、少し奥へと走る。
やはり穴の中だとステータスが上がるようで、抱えているエルフの身体がめちゃくちゃ軽くなったように感じる。
「な、なんだ、ここは……? しかも同胞たちが……」
「簡易的な避難所だ」
里の地下に俺が作った空間。
俺はそこにエルフたちを避難させていた。
ベッドも設置しており、そこに負傷者を寝かせている。
「足を怪我しているみたいだ。治療を頼む」
「分かりました!」
先に避難させていたエルフたちに治療は任せ、俺はすぐに地上へと戻ろうとする。
「あ、あのっ!」
「ん? どうした?」
治療を行っていたエルフに呼び止められて振り返ると、
「この薬草、何なんですか!?」
「え?」
「怪我が見る見るうちに治っていくんですけど!? こんな効果の高い薬草、この樹海でも採取できないですよ!」
「そうなのか?」
俺があらかじめ彼らに渡しておいた薬草。
それはこのダンジョンの畑や水田で採取したものだった。
野菜などに交じって、時々、勝手に生えてくるのである。
「まぁ細かいことは気にしないでくれ」
説明してもすぐには理解できないだろうし。
そうして再び地上に戻ると、
「あ、穴から出てきた!?」
「うお、びっくりした」
エルフの戦士たちが待ち構えていて驚く。
「貴様っ、先ほどの同胞をどうした!?」
いきなり問い詰めてきたのは、俺と一ノ瀬が捕まったときにいた長身の女性だ。
周りから戦士長と呼ばれていたので、女性ながら戦士たちのリーダーをしているのだろう。
「安全な穴の中に連れていっただけだ。入り口を狭くしているからな。魔物は入ってこれないはずだ。今は他のエルフたちから治療を受けているだろう」
「穴の中……? 他にも同胞たちがいるのか?」
「ああ。もうほとんどが避難したはずだぞ」
「なっ……」
そんなやり取りをしていると、一ノ瀬がやってきた。
「この辺りの魔物は掃討した」
「こっちもほぼ避難完了だ」
さすがにどこかに隠れているエルフまでは捜し切れてないと思うが、まぁ集落内の魔物も減ってきたし、隠れているならそう心配は要らないだろう。
「それより聖樹がどうとか聞いたんだが、それがこの原因なのか?」
俺は先ほどの戦士長エルフに訊く。
「っ、そうだ……っ! 聖樹の葉が落ち、明らかに弱っていた……っ! 恐らくそのせいで里の中に魔物が侵入してきたのだろう!」
「言っておくが、俺たちは何もしてないぞ? 聖樹の存在すら知らなかったぐらいだし」
「だ、だが、今まで一度もこんなことは……」
「そもそもその聖樹が弱ったからって、急にこんな大量の魔物が来るものなのか? まるでこの集落を狙って、あらかじめ待機させていたかのようだな」
「……言われてみれば。だが、あのモフモフの魔物たちは……」
「あれは俺が呼び出した仲間だから関係ないぞ」
「お前の仲間なのか!?」
とそこで、俺はあることを思いつく。
「そうだ。その聖樹、俺の薬草で治ったりしないかな? 聖樹が元気にならない限り、いくらでもまた魔物が入ってきそうだし」
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