第69話 危険な魔物には見えぬ
「「「ぶひぶひぶひいいいいいいいいいいいいいいっ!!」」」
巨大なモフモフの魔物たちが、里に侵入しようとしていた樹海の魔物の群れへと凄まじい勢いで突進していく。
ドオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
「「「~~~~~~~~~~~~~ッ!?」」」
激突音と共に、次々と吹き飛ばされる樹海の魔物たち。
その強烈な突進力に、エルフたちは戦慄した。
「樹海の凶悪な魔物が、軽々と弾き飛ばされただと……っ!?」
「な、何なのだ、この毛むくじゃらの魔物たちはっ!?」
「しかもあの巨体で、このバリケードを悠々と飛び越えていったぞ……?」
もしこの魔物たちの牙がこちらに向いたら、対処することなど不可能だ。
思わず震えるエルフたちだったが、そこで彼らの一人が後方を向きながら声を荒らげた。
「み、見ろ! 里の中にも、見たことのない魔物がいるぞ!」
恐る恐る振り返った彼らは目撃する。
もはや目で追うのもやっとといった俊敏な動きで、里の中を駆け回る虎のような魔物。
信じられない怪力で、樹海の魔物の首を易々と絞め殺す大猿らしき魔物。
そして凶悪な爪と牙で、樹海の魔物を次々と瞬殺していく熊系の魔物。
いずれもモフモフの毛に覆われていて、この樹海で見たことも聞いたこともない種類の魔物たちだった。
「せ、戦士長……我らは一体、どうすれば……?」
呆然とその場に立ち尽くしていた戦士長シャルフィアだったが、部下から問われてハッとする。
「あの魔物たちが敵か味方か分からぬが……今は味方だと信じるしかあるまい! 敵意も感じられぬし……何より……か、かわいいというか……危険な魔物には見えぬ!」
「「「はっ!」」」
彼女の判断で、ひとまずモフモフの魔物たちと共闘することに。
そもそもこの状況で、彼らを排除しているような余裕などない。
激戦区と化していた里の北部が落ち着いたことで、シャルフィアは一部の戦力を引き連れ、中心部へと引き返すことに。
するとそこでも、モフモフの魔物たちが樹海の魔物と戦っていた。
そのお陰か、予想していたほどの被害は出ていないようだ。
同胞たちの無残な死体があちこちに転がっている光景を、覚悟していたのである。
「彼らは救世主なのかもしれぬ……。しかし一体、どれだけの数がいるのだ……? しかもどこからこの里の中に入ってきた……?」
シャルフィアが困惑していると、
「は」
「~~~~~~ッ!?」
頭が完全に凍り付いたトロルが地面に倒れ込む。
そのすぐでっぷりと太った腹の上に着地したのは、牢屋にぶち込んだはずの人族の少女だった。
「な、なぜお前が牢屋から出ているのだ!?」
「エルフ幼女のピンチを救うため」
シャルフィアの叫びにそう答えると、少女はまた別のトロルに飛びかかっていく。
トロルが繰り出す剛腕をしゃがみ込んで躱すと、すれ違いざまに大木の幹のような右足を切り裂いた。
「ッ!?」
するとその右足が一瞬にして凍り付き、動かなくなる。
隙だらけになったトロルの背中から駆け上がった人族の少女は、その脳天に剣を突き出すと、今度はトロルの頭部が凍っていった。
そして地面に倒れ伏す。
「トロルの上位種、ブラックトロルを瞬殺だと……? これほどの実力の持ち主だったというのか……?」
あのとき大人しく捕まったが、もし抵抗されていたとしたら、きっとこちら側に大きな被害が出ていただろうとシャルフィアは息を呑む。
「シャルフィア様! あそこに負傷者がっ!」
「っ!」
仲間が指さす方を見ると、そこには倒れた同胞の姿が。
足があらぬ方向に曲がっており、一目で重傷と分かる。
だが今はまだ救助に戦力を割いている場合ではない。
こうしている間にも、里に侵入した魔物に襲われている者がいるかもしれないのだ。
と、そのとき。
「足を負傷して動けないのか? よし、運ぶぞ」
もう一人の人族がその重傷者のもとへと走ってきたかと思うと、その身体を抱え上げて。
――姿が一瞬で消失した。
「っ!? 消えた!? どこに行ったのだ!?」
「戦士長! ここに穴がっ!」
「な、何だ、この穴は……っ!?」
先ほど同胞が倒れていた場所に空いた謎の穴を発見したシャルフィアは、不可解な現象の連続に理解が追い付かず、頭を抱えるのだった。
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