第67話 もちろん助ける

「何か聞こえる。叫んでるような声」

「え? ……本当だ。喧嘩でもしているのか?」


 しばらく牢屋で大人しくしていると、何やら外が騒がしくなってきた。

 もしかして俺たちの処遇について意見が割れ、それが喧嘩沙汰にまで発展してしまったのでは……などと考えていると、警備についていたエルフが慌てた様子でこちらへ走ってくる。


「うわあああああっ!」

「ブルアアアアアアッ!」

「「魔物っ?」」


 彼を追いかけてきたのはトロルだ。

 でっぷりと太った人型の魔物だが、今まで見たことある個体より一回り以上の大きく、上位種かもしれない。


「ブアッ?」


 ただ、身体が大き過ぎて、この狭い牢屋の奥にまでは入り込めないようだ。

 途中でお腹がつっかえてしまい、ジタバタしている。


「何があったんだ?」

「ま、魔物が、この里の中に侵入してきたんだ!」


 警備のエルフが叫ぶ。


「こんなこと今まで一度もなかった……っ! 聖樹の力で護られたこの里には、魔物が近づいてくることができないはずなのに!」


 と、そのときである。

 どうやらつっかえていた部分を強引に突破してしまったようで、トロルが獲物に餓えた目でこちらに迫ってきた。


「く、来るなあああっ!」


 エルフが矢を放つが、トロルの腹の肉が分厚過ぎるのか、突き刺さっても意に介さずに襲い掛かってくる。


 トロルの大きな手が、エルフの身体を掴み上げようとした次の瞬間、


「ブア?」


 その手が空を切って、トロルが頓狂な声を漏らす。

 エルフの姿が掻き消えていたのだ。


 正確には、すぐ足元に出現した穴の中に落ちていた。


「え? え? え?」


 トロルに捕まると思いきや、なぜか穴の中にいる状況に理解が追い付かず、そのエルフは混乱している。


「すごい。本当に一瞬で掘った」

「【穴掘士】だからな。得意技だ」

「スコップもないし、距離も離れてるのに」


 もちろんその穴を掘ったのは俺だ。


「どうやら大人しく牢屋に入ってる場合じゃなさそうだ」


 俺は目の前の鉄格子を掘った。

 あっさりと穴ができて、一ノ瀬がそこから飛び出すと、トロルの眉間に剣を突き出す。


「ブアアアアアアアアッ!?」


 絶叫しながら暴れるトロルだが、その頭部があっという間に凍り付いていく。

 そのまま轟音と共に地面に倒れ込んだ。


「え? え? え? え?」


 まだ穴の底で混乱しているエルフの頭上を飛び越え、俺たちは牢屋の外へ。


「魔物がっ……」


 里に侵入してきたのはトロルだけではなかったようだ。

 軽く見回しただけでも、十体以上の魔物があちこちで暴れている。


「シャアアアアアッ!!」

「「「ひいいいいいいっ!?」」」


 すぐ近くにいたのは巨大な蛇の魔物。

 それが数人のエルフたちに襲いかかろうとしているところだった。


 俺たちを捕らえたエルフたちのように、この里にも戦士がいるはずだが、恐らく魔物の数が多すぎて手が回っていないのだろう。


「氷矢」


 一ノ瀬が放った氷の矢が、その蛇の側頭部に突き刺さる。


「~~~~~~ッ!?」


 痛みで苦悶する蛇へ距離を詰めると、一ノ瀬は追い打ちの斬撃を放った。

 首を掻き切られ、魔物は血を噴き出しながら地面に倒れ込む。


「大丈夫?」

「っ……貴様はっ、人族!? なぜ牢屋から出ているのだ!?」

「怪我してる。治療した方が良い」

「だ、黙れ! 誰のせいでこんなことになったと思っている!? 貴様らだろう! 聖樹に一体何をした!?」

「聖樹?」

「しらばくれるな! これまで一度も、こんなことはなかったぞ!?」


 助けてあげたのに、なぜかめちゃくちゃ激怒している。

 見たところかなり年配のエルフたちだ。


「だ、誰かああああああっ!?」


 とそのとき、悲鳴を上げてこちらに逃げてくるエルフたちがいた。

 男女二人と、まだ小さな子供のエルフだ。


 しかも女の子っぽい。

 一ノ瀬の目が鋭く光った。


「もちろん助ける」


 家族と思われるそのエルフたちを追いかけていた狼の魔物へ、真正面から突っ込んでいくと、その脳天に斬撃を叩き込む。


「ワオオオオオンッ!?」


 断末魔の声と共に倒れ伏す狼。

 一ノ瀬はこちらを振り返って、


「もう大丈夫。お姉ちゃんに任せて(リアルエルフ幼女キタあああああああああああああああああああっ!!)」


 ……鼻血が出てるぞ?

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