第66話 どうしてこうなった?

「貴様らの処遇はこれから協議する。それまでこの牢屋の中で大人しくしていろ」


 エルフ美女がそう厳しく言い残し、去っていく。


「……どうしてこうなった?」

「どう考えてもお前のせいだろ」


 俺と一ノ瀬はそろってエルフたちに捕えられ、牢屋にぶち込まれてしまったのだ。


「エルフ幼女に会いにきたとか、馬鹿正直に言うからだ」

「なぜ? 疚しい気持ちはない。ちょっと軽く抱き締めてくんかくんかさせてもらうだけ」

「アウトっ!!」


 いきなり殺されなかっただけでもありがたいレベルである。


「とはいえ、死刑にされるかもしれないけどな」

「それは困る。まだエルフ幼女に会えてない」

「そのモチベーション、どこから来てるんよ……」


 まぁ、いざというときは穴を掘って逃げればいい。

 牢屋といっても、岩に穴を開けただけの簡単な作りだし、この程度の硬さなら余裕で掘ることができるだろう。


 それにしても、この狭い牢屋に男女二人。

 しかも相手は学校内でもトップクラスの美少女だというのに、まったくドキドキしない。


「……中身がこれだからな」

「?」




    ◇ ◇ ◇




「今すぐ殺すべきだ! 人族に温情など要らぬ!」

「だが彼らはまだ何もしてはいない。聞けば、抵抗することもなく大人しく捕まったというではないか。何も命までも奪わなくとも」

「なにぬるいことを言っているのだ! 人族がこれまで我らにしてきた仕打ちを知っているのか!? あの方だって、人族どものせいで……」

「そうだそうだ! この場所を知られた以上、生かして返すわけにはいかん!」


 エルフたちの議論は紛糾していた。


 樹海の奥深くにあるはずのこの里に、突如として現れた二人の人族。

 ひとまず牢屋に捕えた彼らを一体どうするか、里の主だった者たちが集まり、話し合っているのである。


 そもそもエルフたちにとって、人族は天敵のようなものだ。


 過去に多くの同胞たちが人族によって連れ去られ、奴隷にされていた。

 見目麗しい彼らエルフたちは、特に性的な奴隷としての価値が高く、法外な値段で取引されるのである。


 こんな危険な樹海の奥に彼らが暮らしているのも、そうした人族の毒牙から身を守るためでもあるのだ。


「戦士長シャルフィアよ、お前はどう考える? 奴らを捕らえたのはお主だろう?」


 長老格の一人から意見を求められたのは、若くしてこの里の戦士長を務める女エルフだった。


「はい。……私がこの里に何の用だと問うたところ、奴らの一人は『エルフ幼女に会いにきた』と答えました」

「何だと! 奴らめ、我が里の子供まで狙うとは……っ!」

「やはり生きて返すわけにはいかん!」

「静粛に。今はシャルフィアに訊いておる」


 シャルフィアの言葉に、エルフたちがさらに激昂し、それを長老格のエルフが窘める。


「確かに邪まな念を感じました。ただ、馬鹿正直に真正面から里に近づいてくるなど、計画性が皆無なところもあり、本当に『会いにきた』だけという可能性もあるかと」


 と、そのときだった。

 彼らのもとへ、一人のエルフが慌てた様子で駆け込んできたのは。


「む、どうした? 今は会議中だぞ?」

「た、た、大変ですっ! 聖樹がっ……聖樹がっ……」

「なに? 聖樹に何かあったのか?」


 この樹海でエルフたちが無事に暮らすことができている最大の理由。

 それはこの里の中心にある大木――聖樹が、魔物の嫌がる聖なる気を放っているためだった。


 この木のお陰で、魔物が近づいて来ないのである。

 だが報告を受けて、慌てて聖樹のもとへと駆けつけた彼らが見たものは……。


「こ、これはどういうことだ……っ!?」


 普段は青々としているはずの葉の多くが、茶色くくすんでいたのである。

 地面には完全に枯れ果てた葉が大量に落ちていた。


 聖樹は一年を通して青い葉を茂らせ、特定の季節に大きく落葉するようなことはない。

 しかも枝の多くが力なく垂れ下がっていて、明らかに聖樹の様子がおかしかった。


「なぜこんなことに……?」

「まさか、聖樹が枯れかけている……?」

「や、奴らのせいだ! 人族どものせいに違いない!」

「殺せ! ……いや、殺す! もはや議論など不要だ!」


 原因を人間たちのせいと決めつけたエルフたちは、今すぐ自らの手で彼らを処刑せんと、牢屋へと殺到したのだった。


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【お知らせ】近いうちにタイトルを変更する予定です。新タイトルは『外れ勇者の俺が、世界最強のダンジョンを造ってしまったんだが?』となります。今後ともよろしくお願いいたします。

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