第65話 ひっ捕らえろ

「それよりここは魔境として知られる樹海だぞ? 何でこんなところにいるんだ? しかも見たところ一人だろ?」


 俺は一ノ瀬に問う。


「この樹海には、エルフが住んでいる……と聞いた」

「エルフが?」

「そう。エルフ(幼女)に会いたい」

「……今なんか、エルフの後に余計な言葉が入ってなかったか?」

「気のせい」


 何だろう……今までの一ノ瀬のイメージがどんどん崩壊していくような……。


「だがソロだと危険だろ」

「それは理解した。魔物のレベルが違う。あと、迷子になってた。かれこれ一週間。食糧も尽きてきて、お腹も空いた」

「遭難してたのかよ……」


 仕方なく俺は彼女に食べ物を恵んでやることにした。

 ダンジョンの畑で獲れた野菜や養殖の魚などをその場で焼いてやる。


「~~~~~~っ!? 美味しい!? はぐはぐはぐはぐはぐっ!」


 樹海は同じような光景が延々と続いているため、非常に迷いやすく、熟練の冒険者パーティでも遭難して死んでいる人たちが少なくないという。

 運良くアンゴラージに遭遇していなければ、一ノ瀬も野垂れ死んでいたかもしれない。


 まぁ勇者なので、最悪生き返ることができるわけだが。


「食べた。生き返った。やはり神」


 すっかり腹が膨れたのか、満足そうに言う一ノ瀬。


「この樹海めちゃくちゃ広大だって聞くし、どこにいるかも分からないエルフを、あてもなく探し当てるのは無謀だろう」

「無謀でも、やる。かわいいエルフ(幼女)が私を待ってる。かわいいは正義」

「別に待ってないと思うぞ」


 カッコいいように言っているが、実際には色々と残念な感じである。


「まぁ、俺の従魔たちが今、樹海中に散らばってるから、もしそれらしきものを見つけたら教えてやるよ。人海戦術だな。人じゃないけど」

「本当? やはり神……穴神様」

「勝手に変な呼び方しないでもらえるか?」


 そんなやり取りをしている間にも、樹海の魔物が次々と誘き寄せられてきていた。

 モフモフたちを守るといって戦おうとする一ノ瀬を制止し、精鋭部隊に撃破させていく。


「……強い。かわいい上に、強いなんて」

「うちの精鋭ばかりを集めているからな」


 一ノ瀬も認める我がダンジョンの精鋭たちだ。


「わうわう!」

「ん? 集落らしきものを見かけたって?」

「わう!」


 そうこうしていると、早速一匹のポメラハウンドから有力な目撃情報が。


「そこまで連れていってくれるか?」

「わう!」


 任せておけ、とばかりに咆えるポメラハウンドの後を追い、俺と一ノ瀬は樹海を進んでいく。

 鼻が利く犬系の魔物だけあって、ポメラハウンドは迷う様子がない。


「……お尻、かわいい」


 小さなお尻と尻尾を振りながら勇ましく前進するポメラハウンドに、一ノ瀬がうっとりしている。


「グルアアアッ!」

「わうっん!?」

「殺す」


 途中で何度か魔物と遭遇したが、その度に一ノ瀬が瞬殺した。


「大丈夫? 怖くなかった? もう大丈夫だから」

「わ、わう……」

「この子を怯えさせるやつは、万死に値する」

「くぅん……」


 ポメラハウンドはむしろ一ノ瀬に怯えている。


 そうこうしているうちに、やがてそれらしきものが見えてきた。


「人工的な石造りの防壁があるな」

「エルフの集落に違いない」

「気を付けろよ? こんな樹海の奥だし、隠れ住んでいるのかもしれない。そんな場所を訊ねてくるような人間は、当然警戒されるだろう。下手をすれば危険視されて攻撃されるかも……」

「エルフ幼女どこハァハァ」


 むしろ警戒した方がいいやつだな、うん。

 もはや幼女を隠さなくなったし。


 と、そのときである。

 頭上から複数の影が降ってきたかと思うと、一瞬にして俺たちは取り囲まれていた。


 エルフだ。

 武器を構え、俺たちを親の仇にでもあったかのような鋭い目で睨みつけている。


「人族どもめ、我らが里に何をしにきた?」


 そんな中、一人の背の高いエルフ美女が怒りの籠った声で訊いてきた。

 一ノ瀬が堂々とそれに答える。


「エルフ幼女に会いにきた」

「よし、ひっ捕らえろ」

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