第63話 モフモフ、ぜったい、捕まえる
巨大な蜘蛛の魔物も倒した俺は、いったんダンジョンに戻り、生活拠点まで引き返した。
「それはたぶん、『バルステ大樹海』だと思います」
「バルステ大樹海?」
色々あってここで暮らしている子供たちのうちの一人、シーナによると、どうやらあの森はこのバルステ王国内でも一、二を争う規模の魔境だという。
「えっと、魔境というのは、すご~~く危険な場所のことです。私もあんまり詳しくないですけど……」
魔境には、そこらの魔物とは一線を画すレベルの凶悪な魔物が多数、棲息しているらしい。
俺が遭遇したヒョウも蜘蛛も、確かに今まで見たことのない魔物だった。
「なるほど。ということは、魔境の魔物をどんどんダンジョンに誘き寄せて倒していけば、もっとダンジョンポイントを稼げるってことだな」
ダンジョンを構築する上で必要となるのがダンジョンポイントだ。
これは時間経過で自動的に獲得することも可能だが、ダンジョン内に侵入してきた生物を倒すことでも獲得することができる。
そしてその生物が強力であればあるほど、入手できるポイントも大きくなる。
俺は再びその魔境に戻ると、地下に広めの空間を作成した。
さらに強力な部隊を結成し、そこに配備する。
「これから魔境の危険な魔物をここに誘き寄せてくるから、全員で力を合わせて倒していくんだ」
「「「にゃっ!」」」
「「「うほうほ!」」」
「「「ぶひぶひ!」」」
「「「くまくまー」」」
威勢のいい返事が返ってくる。
チンチライオンの上位種チンチライオンジェネラルや、イエティの上位種ボスイエティ、マンガリッツァボアの上位種グレートマンガリッツァボア、そしてシロクマモーンの上位種ブラッディシロクマモーンといった、戦闘力の高いモフモフばかりで構成されている。
それとは対照的に、誘き寄せ部隊にはとにかく数を投入した。
「「「ぷぅ!」」」
「「「わう!」」」
「「「くるる!」」」
上位種でもない、ただのアンゴラージ、ポメラハウンド、エナガルーダである。
鬱蒼とした樹海では、身体が小さい方がむしろ有利に働くとの考えからだ。
軽く百体を超える彼らを、一斉に樹海へと解き放った。
この魔物の誘き寄せ作戦自体は、前から行っていたものだ。
だが最近はよくそのための出入口が見つかってしまって、トラブルになったりしていた。
「その点こんな危険な場所なら、まず人に見つかるようなことはないだろう」
そんなことを呟いていると、
「ぷうううううううううううううううっ!?」
樹海の奥から猛スピードで逃げてくる一匹のアンゴラージ。
早速、魔物を引き連れてきたようだ――
「逃がさない。モフモフ、ぜったい、捕まえる」
――魔物じゃない!?
アンゴラージを追ってきたのは、一人の少女。
長い髪を靡かせながら、俊敏なアンゴラージにも負けない速度で樹海を疾走してくる。
しかもその顔に見覚えがあった。
「って、一ノ瀬!?」
一ノ瀬凛。
この異世界に一緒に転移してきたクラスメイトの一人だ。
芸能人ばりの整った顔立ちながら、かなりの無口で、教室ではいつもずっと一人で過ごしている女子生徒である。
どこかミステリアスな印象で、それがかえって魅力的なのか、学内でも圧倒的な人気を誇っていた。
「モフモフ、ぜったい、捕まえる」
そんな彼女だが、今は怖いくらい目が爛々と見開いている。
ギュンッ……。
さらに俺を完全にスルーし、穴の中に逃げ込んだアンゴラージを追って、躊躇なくダンジョンに飛び込んでいってしまった。
「ええと……ま、待ってくれ!」
俺は慌てて彼女を追いかけた。
ていうか、何でこんなところにいるんだよ!?
アンゴラージでも逃げ切れないほど、一ノ瀬の足は速かった。
だが地上ならともかく、ダンジョン内であれば俺も負けてはいない。
一気に彼女の背中に追いつくと、そのまま抜き去った。
「っ!?」
「おっ、ようやく気づいてくれたか」
「……誰?」
「クラスメイトだよ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます