第62話 身体が重たい感じがする

『おめでとうございます! レベルアップしました! 新たな機能が追加されました』


 マンティコアを倒したことで得られた膨大なダンジョンポイント。

 それを消費していると、レベルが7になった。


 追加された機能は「魔物呼び出し」というものだった。


「なるほど、ダンジョン内であれば、作成済みの魔物を一瞬で呼び出せるというものか」


 実際に試してみると、俺が今いるところからかなり離れた場所で拡張作業をしていたアンゴラージが、すぐ目の前に出現した。


「ぷぅ?」


 土を掘るために頑張って動かしていた前脚が、急に空を掻くようになって驚いている。

 ちなみに呼び出す魔物は、マップ上から指定することが可能だ。


 マンティコアみたいな強敵が現れたときなどに、ほうぼうに散っている戦力を瞬時に集めることができるのはかなりありがたい。


「もしかしたら眷属も呼び出せるかも?」


 ふとそう思って、アズに使ってみた。

 すると次の瞬間、口を大きく開けて涎を垂らしながら寝ているアズが出現した。


「ぐが~……お肉……いっぱい……幸せだわ……ぐひひ……」

「……」


 今度はエミリアを呼び出してみる。


「すや~……もうこんなに……食べれないですわぁ……」

「……」


 呼び出すことはできても、元の場所に戻すことはできないらしい。

 俺はそのままここに二人を放置することにした。







「ん? この上、ちょっと今までと違う感じだな?」


 いつものようにダンジョンを広げていた俺は、地上の様子の変化に気づいて手を止めた。

【穴掘士】の能力で、地中にいても地上のことが何となく分かってしまうのだ。


「森のようだが……普通の森じゃない気がする」


 地面を掘り進めて地上に出てみる。

 するとそこは予想通り、鬱蒼とした森の中だった。


「かなり深い森だな。それになぜか息苦しいというか、身体が重たい感じがする」


 ここはファンタジー世界だ。

 凶悪な魔物が棲息する森かもしれないし、危険なトラップなどのある森かもしれない。


 ダンジョン内と違って、戦闘能力が乏しくなる地上で長居するのはリスクが大きいと判断し、すぐに穴の中に戻ろうとしたときだった。


 ザザッ!!


「っ!?」


 突如として聞こえてきた物音に振り返ると、木々の隙間から何かが飛び出してきた。


 全長は三メートルほどあるだろうか。

 細身で四肢が長く、俊敏そうな身体つき。


 ヒョウの魔物だ。

 しかも周囲の木々に紛れるような、緑と茶色が混じり合ったような色合いの体毛をしている。


 天然の迷彩柄。

 それゆえ、俺は先ほどから警戒して周りを何度も確認していたのに、ここまで接近されるまで気づけなかったのだろう。


「グルアァッ!」


 マズいっ……この距離じゃ、穴に逃げ込む前に前脚の爪が俺の身体に食い込んでしまう。

 次の瞬間、俺はヒョウの顔面を蹴りつけていた。


「ギャウンッ!?」

「あれ?」


 咄嗟に出た破れかぶれの蹴りだったにもかかわらず、魔物の大きな身体がひっくり返る。


 あのマンティコアと比べればずっと小さいが、それでも俺のような非力な人間が蹴り飛ばせるとは思えない。


「どういうことだ? いや、考えるのは後だ」


 ヒョウが起き上がる前にと、俺は穴掘り攻撃を繰り出す。

 するとその身体の一部が消失した。


「地上でも使えるようになってる? ……もしかして、以前よりも【穴掘士】としてのレベルが上がったから?」


 以前、美里にステータスを調べてもらった時点で、俺はレベル21になっていた。

 それからエミリアのダンジョンを攻略したり、マンティコアを倒したりしているし、もっとレベルが上がっていてもおかしくないだろう。


 たとえ雑魚職業であっても、レベルが高ければ、それなりに戦うことができるということだ。


 俺はそのヒョウの魔物にトドメを指した。

 とその直後、何かが飛んできたかと思うと、俺の身体に絡みついてくる。


「糸? ……また別の魔物か」


 今度は蜘蛛の魔物だ。

 やはりこの森、そこらの森とは危険度が段違いらしい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る