第61話 まったく同じ話ですね

 マンティコアを倒した直後のことだった。


『警告。ダンジョン内に侵入生物です』

「またか」


 システムの警告を受けてマップを確認してみた俺は、侵入者を示す赤い点の多さに驚いた。


「おいおい、五十人くらいいるぞ」


 しかもそのうちの四つが、こちらに向かってきている。

 一直線のルートとはいえ、結構なペースだ。

 すぐにこの場所に辿り着くだろう。


 幸いマンティコアと戦うため、ちょうど戦力を集めていたところである。

 この場で侵入者たちを迎え撃とうと覚悟を決めたのだが……。


「何だ、誰かと思ったらお前たちか」

「丸くん!? 無事だったんですね!?」


 現れたのは天野たち勇者パーティだった。

 とりあえず部屋の端の方に放置していたマンティコアの死体を見て、彼らは一斉に叫んだ。



「「「マンティコアが死んでるうううううううううう!?」」」



「え? ああ、実はちょうどさっき倒したところなんだ」

「倒した!? このマンティコアをですか!? 危険度Bの魔物ですよ!?」

「危険度B? 道理でちょっと強いと思った」

「〝ちょっと〟ですか!?」

「いや、もちろん俺一人で倒したわけじゃないぞ? みんなで協力して倒したんだ。それよりどうしたんだ? なんか随分と慌ててたようだが……」


 詳しく聞いてみると。


 どうやら俺が倒したこのマンティコア、他の魔物を積極的に喰らい、成長していく特殊個体だったらしい。

 その討伐のために、五十人規模の騎士部隊が出動し、天野たちもそれに加わっていたそうだ。


 だがそのマンティコアを捜してもなかなか見つからない。

 一体どこに行ったのかと首を傾げる騎士たちが発見したのが、このダンジョンの入り口と、その近くにあるマンティコアのものと思われる足跡だったという。


「そのダンジョンがあまりにも直線的に伸びていたので、きっと丸くんのダンジョンに違いないと思ったんです」

「もしかしたらマンティコアに襲われているかもしれない! それでオレたちは急いでここまで走ってきたんだ!」

「まさか倒してるとか、あなりんマジ最強じゃん」


 それで慌てた様子だったんだな。


「ええと……無事が分かったので、私たちはすぐに戻りますね? 何も言わずに勝手に部隊を離れてここまで来てしまいましたので……。あ、さっきの入り口は閉鎖しておいた方がいいと思います。予想外にダンジョンを発見したので、すぐには探索したりはしないはずですから」


 そうして天野たちは来た道を引き返していく。

 その後、ダンジョンから侵入者がいなくなったのを見計らって、俺はその入り口を閉じたのだった。



    ◇ ◇ ◇



「ダンジョンの入り口が無くなってしまった……?」


 マンティコア討伐のために出動した精鋭部隊。

 その部隊を率いた騎士隊長の報告を受け、首を傾げているのは王女セレスティアである。


「は、はい。足跡の様子からして、マンティコアはそのダンジョンに入ったことは間違いありません。しかし、ダンジョン探索用の装備を整え、改めてそのダンジョンを調査しようとしたところ、その入り口が忽然と消えていたのです」

「ダンジョンは内部の構造が変化することはあっても、入り口が現れたり消えたりすることはありません。場所を間違えてしまったのでは?」

「い、いえ、入り口の近くに斥候を置き、常に見張らせておりました。ですので、場所が分からなくなってしまった可能性はないと断言できます」


 ただし、マンティコアが出てくる危険性があったため、見張りはダンジョンの入り口からは少し離れた位置にいた。

 それもあって、入り口が消えた瞬間を確認することはできなかったのである。


「現在さらに調査を進めているところなのですが……実は、とある商人たちから気になる情報を得まして」

「それは?」

「彼らもダンジョンらしき洞窟を発見し、そこで見たことのない魔物に遭遇した、と。しかしその後、改めてその入り口を探したにもかかわらず、見つけることができなかったというのです」

「……まったく同じ話ですね」


 だがどちらも場所が違っている。


「一体どういうことでしょうか……。もし、本当にダンジョンがあったとして、出入り口が現れたり消えたりするとしたら……」


 マンティコアを凌駕する脅威になり得るかもしれないと、警戒を強めるセレスティアだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る