第60話 勇者たちはどこに行ったんだ?

「……申し訳ありません、隊長。やはりこの半径一キロ以内にも、力のある魔物の気配はないようです」

「どういうことだ? これだけ捜しても、なぜ奴が見つからないのだ……?」


【斥候】のジョブを持つ部下の報告を受けて、その騎士隊長は首を傾げていた。


 特殊個体の可能性があるマンティコアを討伐するため、五十人規模の騎士たちが出動したのだが、なぜかそのマンティコアがなかなか発見できないのだ。


「さっき足跡が見つかったってことは、近くにいるはずだよな?」

「そうですね……もしかしたらこちらの戦力を察知し、どこかに逃げたのかもしれません」

「めっちゃ頭いい奴じゃん!」


 作戦に参加している勇者たちもまた、この状況に困惑していた。


「あるいはどこかに隠れて隙を伺っているか……」

「なるほど! 気を抜けないな!」


 住吉美里の指摘に、天野正義が注意深く周囲を見回す。

 と、そのときである。


「隊長! ここにもマンティコアのものと思われる足跡が!」


 新たな報告を受け、騎士隊長と共に勇者たちもその場所へと向かう。


 するとそこにあったのは、確かに先ほど見つけた足跡と瓜二つの足跡。

 しかし――


「この洞窟は……まさか、マンティコアはこの中に?」


 その足跡の先に洞窟らしきものを見つけたのだ。

 足跡の方向から推測するに、マンティコアはこの中に入っていった可能性が高い。


「マンティコアは巣穴など作らない。つまり奴の巣というわけではないだろう」

「この気配……もしかしたらダンジョンかもしれません」

「ダンジョンだと?」


【斥候】の部下の言葉に驚く騎士隊長。


「こんな場所に未発見のダンジョンがあったとは……」

「幸いすぐ近くに魔物がいる様子はありません。入ってみますか?」

「……ああ」


 十分に警戒しつつ、中へと足を踏み入れる一行。

 もしここがダンジョンであれば、魔物やトラップの危険性があるし、それにマンティコアが中にいる可能性もある。


「な、なぁ、このダンジョン……もしかしてだが……」

「……はい、私もそう思いました」

「む? 勇者様? 何かありましたか?」

「い、いえ、何でもありません」


 狭い入り口を通り抜けた先は、それなりの広さの通路になっていた。

 これなら全長五メートルあるマンティコアであっても、奥に進むことができるだろう。


「隊長、相当奥深くまで続いているようです。ダンジョン用の装備を用意してきていませんし、これ以上の探索は避けた方がよいかと。それにマンティコアが現れた場合、この広さでは数の利を活かし切れません」

「そうだな。よし、ひとまず撤退だ!」


 そうしてダンジョンの外にまで撤退したところで、騎士隊長は神妙な面持ちで告げる。


「恐らくマンティコアは、この謎のダンジョンの中にいると思われる。正直、状況としては、さらに悪化したと言わざるを得ないだろう。ダンジョン内の魔物を喰らうことで、あのマンティコアがさらに成長していく可能性があるからだ」


 ダンジョンと特殊個体のマンティコア。

 二つの脅威に対応せざるを得なくなり、頭を抱えたくなる騎士隊長だった。


「……ん? ちょっと待て。勇者たちはどこに行ったんだ?」







 騎士たちがダンジョンから撤退した一方、勇者たちはというと。


「このダンジョン、間違いなく丸くんのダンジョンだと思います!」

「ああ! 今頃、マンティコアに襲われている頃かもしれない! 急ごう!」


 こっそり騎士部隊と別れ、ダンジョンの奥へと向かっていた。

 このダンジョンがクラスメイトの作ったものだとすれば、マンティコアの脅威に晒されている可能性が高い。


 そうして走り続けること、数十分。

 幸いほとんど一本道だったため、一切迷うこともなく、やがて一行は広い部屋へと辿り着いた。


 そこで彼らが目撃したのは――


「何だ、誰かと思ったらお前たちか」

「丸くん!? 無事だったんですね!? って……」


 ――平然とした様子の穴井丸夫と、あちこちに穴が空いて倒れ込んだマンティコアの巨体だった。


「「「マンティコアが死んでるうううううううううう!?」」」

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