第58話 特殊個体?

「特別招集、ですか?」


 冒険者ギルドに戻った美里たちを待っていたのは、王宮からの呼び出しだった。


 基本的に自由行動を許されている勇者だが、時に国からの招集を受けることがあるとは聞いていた。

 ただ、これが初めての事例である。


 王都内にいた美里たちは、すぐに王宮へ。

 出迎えてくれたのは、この国の王女様だ。


「急にお呼び出ししてしまい、申し訳ありません。実は皆さん勇者様のお力をお貸しいただきたい事案が発生いたしまして……」


 彼女の名はセレスティア。

 まだ二十歳の第四王女ながら、他の王子王女を差し置いて、十数年ぶりとなる今回の勇者召喚の責任者を務めた人物でもある。


 王女ながら腰が低く、いきなり召喚された勇者たちがあまり抵抗なくこの異世界の事情を受け入れることができたのは、彼女のお陰と言っても過言ではないだろう。


「実は危険度B相当と目される魔物が、この王都からそう遠くない場所に出現したのです」


 危険度B。

 小規模な都市であれば、単体で壊滅させ得るとされる強力な魔物だ。


「すでに幾つかの村が全滅し、村人がその餌食になってしまったとの報告が寄せられていました。そこで二十人規模の部隊を出動させたのですが……」


 どうやら返り討ちに遭い、半数近い死傷者を出しながら撤退を余儀なくされてしまったという。


「こちらは精鋭ばかりを集めており、十分な戦力のはずでした。ですが、敵は予想を超える強さだったのです」


 そこでその部隊を率いていたという騎士が呼ばれ、当時の状況を語ってくれた。

 三十代半ばほどのベテラン騎士だ。


「これは私の予想だが、あの魔物は間違いなく特殊個体だ」

「特殊個体?」

「魔物の中には、他の魔物を積極的に喰らうことで強くなっていく個体が存在する」


 魔物同士での争いは決して珍しいことではない。

 だがその多くは自分の縄張りを護るためや、食事のためだ。


 一方で、ただひたすら他の魔物を殺すことに快楽を覚えた魔物がいる。

 この手の魔物は、人間が魔物を倒してレベルを上げていくように、急速に強くなっていくのである。


 こちらが予想を見誤り、大きな被害を出してしまったのは、それが原因だとベテラン騎士は告げた。


「恐らくそう遠くないうちに上位種に進化するだろう。当然このタイプの魔物はそこでは終わらない。さらに魔物を喰らい続け、やがて手が付けられないような魔物にまで進化してしまう……ゆえに今のうちに必ず始末しておかなければ」

「そこで皆さんには、騎士団と協力し、その魔物を倒していただきたいのです」


 セレスティア王女が話を引き継ぐ。


「そういうことなら、オレたちに任せてくれ!」


 天野が二つ返事で請け負った。

 仲間たちに相談することもなく勝手に決める彼に、美里は呆れつつも、


「分かりました。力を貸しましょう。ところでその魔物というのは、どういう種類の――」










「「「わうわうわうっ!」」」


 その日、慌てた様子のポメラハウンドたちが、穴掘り作業に勤しんでいた俺のところまで駆け寄ってきた。


「え? なんかヤバい魔物がダンジョンに入って来たって?」

「「「わうわう!」」」


 外から侵入してきた魔物に関しては、すべてモフモフたちに任せていた。

 時には強い魔物が現れることもあったが、各地に強化させた上位種のモフモフを配置しており、大抵はそこで蹴りがつくはずだった。


 だがそのうちの一体である強化ポメラウルフが、どうやら負けてしまったという。


「場所は……この辺りか」


 マップでその魔物の位置を確認し、俺は現場へと急いだ。


「味方がどんどんやられてるな。確かに並の魔物じゃなさそうだ」


 その間もマップを見ていたのだが、味方の魔物を表す黒い点が、敵を示す赤い点によって次々と消されていた。


「この先だな……」


 やってきたのは少し広く掘ってある場所。

 チンチライオンジェネラルを配置していたところだが……。


「っ……いたぞ」


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