第57話 また何か勘違いしてないか?

「ところで……女の子が一人、増えているように見えるんですけど……どういうことですかね?」


 美里がジト目で訊いてくる。


「ああ、エミリアのことか。あれから色々あってな」

「色々って何ですか? 詳しく教えていただけますか?」


 なぜか厳しく詰め寄ってくる美里。


「ははっ、穴井も隅に置けないな!」

「あなりん、なかなかやるじゃ~ん!」

「いや、そういうんじゃないから」


 盛大に勘違いしている様子の天野と神宮寺に、俺はきっぱりと否定する。


「また綺麗な女の子を……羨まけしからん……」


 大石に関しては無視だ。


 俺は別のダンジョンと激突し、それを吸収したことを話した。


「……偶然にしては、可愛い女の子ばかりですね?」

「本当に偶然だって」

「どうだか」


 俺が狙って女の子を眷属にしているとでも思っているのだろうか。

 もし狙って眷属を増やせるのなら、もうちょっと役に立つ眷属を狙うって。


 と、そのとき。


「お兄さん、もしかしてお友達さんですか?」

「友達いたんだ。意外」

「み、ミルカちゃん、その発言は失礼だよ……?」


 リビングでの話し声が聞こえたのか、自室にいた子供たちがやってきた。


「っ……まさか、こんな幼い子供たちまで……っ!?」


 美里がショックを受けたような顔で後退る。


「見損ないましたっ!」

「ちょっと待て。また何か勘違いしてないか?」

「じゃあ、どうして女の子ばかりなんですか!」


 正確には女の子ばかりではないのだが。


「しかも可愛い子ばかり! 丸くんの変態っ! ロ〇コン!」

「だから違うって!?」

「穴井! さすがにそれはダメだぞ!」

「あなりん、あたしもひいちゃうんですけど……?」

「お前たちまで……」


 彼らの誤解を解くべく、俺は必死に経緯を説明した。


「……なるほど。そういうことだったんですね」

「納得してくれたか……」


 安堵の息を吐く俺。

 このままロ〇コン扱いされることにならなくて助かった。


「お兄さんのお陰で、リッカたち救われたんだ!」

「う、うん。だからお兄さんのことを悪く言わないで……」


 子供たちもフォローしてくれる。


「手も出されてない。今のところはね」

「ふん、どのみちこいつにそんな度胸なんてないわよ」


 ミルカとマインはあまり俺をフォローする気はないらしい。


「だ、大丈夫ですっ……お兄さんは、いつもすごく優しくしてくれますから……お風呂で身体を綺麗にできて、ベッドもふかふかですし……」


 シーナの発言は、聞きようによってはむしろ危うい意味にとられかねない。


「……と、とにかく、心配されるようなことは何もないからな」

「いいや、何か問題があってからでは遅い!」

「先生?」


 いきなり大石が叫んだので驚く。

 さらに血走った眼で、大石は拳を握り締めながら、


「ここは教師として、しばらく一緒に暮らして君たちの生活をチェックしなければ……っ! ハァハァ……」

「お前こそ下心マックスだろうが」


 元の世界に戻ったら、真っ先にこいつを教育現場から追放したいところである。


「むっ! あれは……っ!?」

「今度は何だ……?」

「筋トレ器具じゃないか!」


 天野がトレーニングルームを発見し、近づいていく。


「見事なラインナップだ! まさかこれもダンジョンの力で!?」

「あ、ああ、そうだが」

「すごい! ちょっと使ってみても構わないかっ?」

「別に構わないが……」


 許可すると、嬉々として筋トレを始める天野。

 これだから脳筋は……。


「うほうほ」

「ん、何だ? お前もやるのか?」

「うほうほ」

「なっ!? この重量を軽々と!? すごいパワーだ! くっ、オレも負けないぞ!」


 そしてなぜかイエティと競い出す。


「何やってるんですか……」


 美里が呆れたように息を吐いたところで、どうにか俺への追及も途切れてくれたようだ。

 その後、天野が満足したところで、まだ「ぼ、僕はあくまで、教師として言っているんだ……っ!」などと喚いている大石を無理やり引きずり、帰っていったのだった。


「もちろんまた来ますから。いいですね?」

「あ、ああ……」


 ……去り際の美里に恐ろしい宣言をされてしまったが。

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