第56話 増えているように見えるんですけど
本当に何なのですか、このダンジョンは……。
キンノスケ様の付き添いで、ご友人の勇者マルオ様が運営されているダンジョンを訪れた私。
野菜や果物、さらには魚やお米まで育つ不思議なダンジョンでしたが、今回来てみると、なんと牛や豚といった家畜までも生産できるようになっていました。
しかもその肉が信じられないほど美味しい。
これは間違いなく売れると、キンノスケ様はすぐに買取りを懇願されました。
「卵や牛乳も欲しいでござるよ」
「ああ、もちろんいいぞ」
マルオ様は二つ返事です。
どの作物もほとんど無限に生産できるというのですから、驚くばかりです。
それにしても、こんなダンジョン、今まで見たことも聞いたこともありません。
もしかするとこのダンジョンが成長していけば、いずれ世界中の食糧事情を解決できるようになるのではないでしょうか……?
ただ今回、この家畜のこと以上に驚いたことがありました。
なんかめちゃくちゃ強そうな魔物がいるんですけど……?
見た目は相変わらずモフモフしていて可愛らしいのですが、私には分かります。
あれは並の魔物ではありません。
「うほうほ」
そんな鳴き声を発しているので、ゴリラの魔物しょうか?
以前はいなかったので、この短い期間に新しく作った魔物なのでしょう。
「マルオ様、この大きな魔物は……?」
「え? ああ、こいつはボスイエティだ。イエティの上位種だな。作った魔物を強化できて、こんなふうに進化させられるんだ。イエティの上位種はこの一体だけだが、他の魔物の上位種は結構作ってあるぞ」
「そ、そうなんですか……」
確かにこの魔物以外にも、他に気になる魔物が何体かいました。
前に見た魔物たちがそのまま巨大化した様子なので、恐らく上位種なのでしょう。
「そうだ。金ちゃん、このイエティたち、収穫や運搬作業に使ってくれていいぞ。力も強いし、頭が良いからすごく役立つはずだ」
「え、良いのでござるか?」
「ああ。もう戦力的には十分すぎるくらいいるからな」
上位種ではないイエティも、見た感じオークなどよりよほど強そうです。
それをただの労働力に使うとは……。
このダンジョン、もしかしてすでに途轍もない戦力を有しているのでは……?
「ちょっと丸くん! どういうことですか!」
金ちゃんに肉や卵などを卸すようになった数日後。
商会の地下に繋げているルートから、天野たち勇者パーティがやってきた。
「何で勝手に入り口を封鎖しているんですか!」
いきなり詰め寄ってきたのは、【聖女】の住吉美里だった。
「あ、そういえば」
「急に入り口が消えていたから探したんですよ!」
王都から最も近い位置にあったダンジョンの入り口。
俺が穴を掘り始めた場所でもあるこれは、あまりにも街に近いため、また誰かが侵入してくるかもしれないと思い、閉鎖したのだった。
だがそのことを、美里たちには言ってなかったのである。
「悪い悪い。伝えたかったんだが、その手段がなくて。けど、そっちのルートから来たってことは、金ちゃんから?」
「……そうですよ。金之助くんが教えてくれたんです」
不満そうに頬を膨らませながら、美里が言う。
「このダンジョンで採れた作物を、金之助くんのお店で売ってるみたいですね」
どうやら金ちゃんの商会が急成長しているとの情報を得て、訪ねてみたのだという。
「どこから手に入れたのか分からない、異常に美味しい作物を売ってると噂になっていたので、もしやと思ったんです。まさか、魚や肉までダンジョンで採れるようになっているとは、思ってもいませんでしたが……」
そこで美里の視線がリビングで寝転ぶ二人に向けられる。
「ところで……女の子が一人、増えているように見えるんですけど……どういうことですかね?」
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