第54話 あんな大人になっちゃダメだぞ?

「きっとあんたが調味料の分量を間違えたせいよ!」

「何であたくしのせいにするんですの!? あなたが果物なんて要れたからですの!」


 責任を押し付け合うアズとエミリア。


「調味料とか、そういうレベルの話じゃないだろ……。果物は確かにスープに入れるのはあれだが……」

「お、お兄さん……あの……」

「ん? どうした、シーナ?」


 おずおずとシーナが指さしたのは、台所の方だ。

 見に行ってみると、そこにはとんでもない光景が広がっていた。


 散乱した食材と調理器具。

 あちこちに不気味な色の液体が飛び散り、調理台も床も傷だらけになっている。

 極めつけは、焼け焦げたコンロ周辺。


 もはや料理の痕というより、戦いの痕だ。


「お姉さんたちに料理させるの、やめてほしいです……」

「うん、そうだな。そうする」


 アズとエミリアには二度と料理させまいと誓う俺だった。

 そして子供たちに言い聞かせる。


「……いいか、みんなはあんな大人になっちゃダメだぞ?」






 アズやエミリアと違って、イエティは本当に有能だった。


 なにせ料理まで普通にこなしてしまうのだ。

 器用に包丁で野菜を切ったり、フライパンで炒めたりといったこともできるし、一度レシピを教えれば、その通りに作ることもできる。


「人間とほとんど知能が変わらないんじゃないか?」

「うほうほ」


 もちろん戦闘能力も高い。

 見かけによらず俊敏に動けるし、何より驚くべきはその怪力だ。


「うほうほっ!」

「ブヒィッ!?」


 身体の大きなオークを軽々と持ち上げ、思い切り地面に叩きつけることができるほど。


「うほうほ」

「え? トレーニングルームを使いたい?」

「うほうほ」


 しかもイエティは、トレーニングルームで筋トレまで初めてしまった。

 使い方もちゃんと理解しているみたいだ。


 そんなイエティに150ポイントを消費して魔物強化を使うと、身長三メートルを超えるボスイエティに進化した。


「うほうほうほっ!」

「めちゃくちゃ強そうだ」


 さらに俺は魔物Gを作成してみる。

 100ポイントも要求されるが、それだけ強力で有能な魔物のはずだ。


「え? 羊?」


 壁から現れたのは、全長二メートルを超す大きなモフモフだった。

 その見た目から羊かと思ったが、


「ぶひぶひ」

「鳴き声が豚だな」

『マンガリッツァボアという猪の魔物です』

「猪なのか」


 マンガリッツァボアは、イエティほどの知能はないものの、凄まじい突進力を持つ魔物だった。


「「「ワオオオオンッ!?」」」


 その威力は、ダンジョンに侵入してきたコボルトの群れを、たった一度の突進で丸ごと吹き飛ばし、瞬殺してしまうほどである。


 そして200ポイントを消費し、魔物Hも作成してみた。


「くまー」

「これは見ただけで分かる。シロクマの魔物だ」

『はい。シロクマの魔物、シロクマモーンです』

「くまくまー」


 鳴き声と見た目は可愛らしいシロクマの魔物だが、大きさは全長三メートルを超え、手足には鋭い爪が付いている。

 試しにダンジョンに侵入してきたトロルと戦わせてみると、


「くまー」


 ズシャッ。


 爪の一撃でトロルの首が飛んだ。

 一応、トロルは大型の魔物で、危険度Cの上位の強さを持つらしいのだが……。


「これを強化したらどうなってしまうんだ……?」


 生憎と強化に600ポイントも必要なので、今はまだできそうにない。


 そうして新しい魔物を作成しつつ、俺は残っていたフィールドEへの変更を実行してみた。


「ん? 何だ、これは? 草原……?」


 フィールド変更を施した一帯が、芝生のように変化したのだ。


『畜産フィールドです』

「畜産……? ってことは……」

『はい。家畜を生産することが可能なフィールドです』

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