第53話 少しは働けよ
「文句しか言わない誰かさんたちより、よっぽど役に立つな」
「ちょっと、それ誰のことよ!」
「聞き捨てなりませんわね」
俺の嫌味に、誰かさんたちが反応する。
一人はソファに寝転がって果樹園で採れたリンゴをむしゃむしゃ食べていて、もう一人はポメラハウンドにもたれ掛かって欠伸を噛み殺している。
「お ま え た ち だ よ」
無論、アズとエミリアのことだ。
こいつら本当にずっとリビングでぐうたらしているだけで、まったく働かないのである。
リビングのソファで寝ているか、魔族女子トークをしているか、何か食っているか、だいたいこのどれかだ。
穴掘りや収穫作業はもちろん、魔物を倒すこともしていない。
まぁ、アズは前からずっとこんな感じなので今さらだが……。
「……エミリア、お前もか」
役に立たない眷属が増えてしまった。
子供たちでさえ、穴掘りや収穫作業の手伝いをしてくれているのだ。
最近は食事を作ってくれたりもしている。
「お前たちも少しは働けよ」
「だって、そういうことはすべて召使いにやらせてたし」
「そうですわ。あたくしたちのような高貴な魔族が、そんな地味な作業なんてできませんの」
「今のお前らは俺の眷属だろ」
「「うっ」」
この二人、魔界にいた頃には裕福な暮らしをしていたようだ。
一応その当時は敵対関係にあったみたいだが、
「たとえ眷属になっても、心までは屈しないから! そうよね、エミリア!」
「そうですわ、アズリエーネ! あたくしたちの矜持までは奪えませんわね!」
「……何で仲良くなってるんだよ」
そろって抵抗してくる二人に、俺は嘆息する。
「だったら、身体に分からせてやるしかないかもしれないな? 言っておくが、こっちの任意で罰を与えることもできるんだぞ?」
「「ひっ!?」」
眷属たちが俺を攻撃しようとしたとき、自動的に発生する罰。
実はこれ、能動的に執行することも可能なのだ。
「わわわ、分かったわよっ! 何かすればいいんでしょ!?」
「ししし、仕方ありませんわねっ! 働いて差し上げますの!」
「料理くらいなら、あたしたちにもできるはずよ!」
「ですわ!」
というわけで、二人に料理をしてもらったのだが、
「何だ、これは……本当に食べ物なのか……?」
できあがってきたのは、この世のものとは思えない色をした謎のスープだった。
紫色のスライムみたいなのが蠢いてるし、なんか匂いもヤバいし……。
「どうよ! 自信作よ!」
「この程度、あたしの手にかかれば朝飯前でしたの!」
「これ、本当にうちの食材だけで作ったんだよな……?」
「そうよ」
「そうですわ」
「……ちなみに、味見はしたか?」
「してないわ」
「してませんの」
何で料理が下手なやつに限って、ちゃんと味見しないんだろうな?
「見た目は確かにちょっとアレかもしれないけど、味は確かよ!」
「味見してないのに何で分かる?」
「いいから早く食べてくださいまし! あたくしの手料理なんて、魔界だったら誰もが食べたがったはずですの!」
二人に促され、俺はしぶしぶその謎の物体に手を伸ばそうとして、
「「ぎゃああああっ!?」」
「ん? どうした?」
「ちょっと!? 何で罰を受けないといけないのよ!?」
「酷いですの!」
「え? 俺の意思でやったわけじゃないぞ? ということは……」
どうやら俺に料理を食べさせようとする行為が、攻撃的なものと判断されたみたいだ。
つまり、食べたらヤバいものだということ。
「よし、まずは自分たちから食ってみろ! おら!」
「「もごもごっ!?」」
俺は無理やり彼女たちの口の中に、スープに入っていた謎の物体を突っ込んでやった。
「「おえええええええええええええええええええええええええええっ!?」」
盛大に吐き出す二人。
「ななな、何よ、このマズい食べ物は……っ!?」
「この世の終わりのような食べ物ですわっ!?」
……やっぱりな。
食わなくてよかった。
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