第51話 少しチビってしまいましたの
『ダンジョンコアの破壊に成功しました。敵ダンジョンを自ダンジョンに取り込みます。……取り込みが完了しました』
ダンジョンコアを壊したことで、このダンジョンがすべて俺のダンジョンの一部になったようだ。
実際にマップで確認してみると、ちゃんと表示されるようになっている。
「こうしてみると、改めてほとんど一本道なダンジョンだな。まぁ、人のことは言えないけど」
元来た道を引き返してみるが、魔物の姿はまったく見かけなかった。
どうやら魔物を引き継ぐことはできないらしい。
「サハギンとか見た目が気持ち悪いし、別に構わないけど」
ただ、川や地底湖などはそのままのようだ。
「お~い、アズ。ダンジョンコアを破壊してきたぞ~」
道すがらアズを発見して声をかける。
だがよく見るとすぐ近くに別の女性の姿があった。
「誰だ、そいつは?」
「……こいつは魔族。このダンジョンのダンジョンマスターよ。元、だけど」
どうやらそのダンジョンマスターは、エミリアというらしい。
なぜ名前を知っているのかと思っていると、エミリアが声を荒らげた。
「この男がっ……こんな男がっ……あたくしのダンジョンコアを……っ! 許せませんわぎゃあああああああっ!?」
きっと俺を攻撃しようとしたので罰が執行されたのだろう、途中で怒声が悲鳴に変わる。
アズと同様、眷属になったみたいだ。
それからなぜか二人でめちゃくちゃ喧嘩し始めてしまった。
「……おいおい、なんか随分と仲が悪いな?」
そのやり取りを聞いていると、どうやらこの二人、魔界にいた頃に面識があったみたいである。
当時から犬猿の仲だったのだろう。
「まぁまぁ、喧嘩は後にして、とりあえずいったん拠点に戻るぞ」
ひたすら醜い言い争いをする二人に見かねて、俺は強引に彼女たちの間に割り込んだ。
「元はと言えば、全部あんたのせいなんだけど!?」
「人間ごときが口を挟まないでもらえますの!?」
するとそろって怒鳴りつけてくる。
それが攻撃的だったせいか、
「「ぎゃあああああああああっ!?」」
二人仲良く罰を受けることになった。
「く……屈辱だわ……魔界の貴族だったあたしが……こんなやつに……」
「あたくしはこれからずっと、こんな人間に逆らうこともできないということですの……? ぜ、絶望しかないですわ……」
随分な言われようだな。
「いいから早く戻るぞ」
俺は溜息混じりにそう告げながら、二人の腕を掴んだ。
右手はアズ、左手はエミリアである。
「ちょっ、何をっ……」
「する気ですのっ!?」
「連れて帰ってやろうと思って」
彼女たちの腕を掴んだまま、俺は地面を蹴って走り出した。
「「~~~~~~~~~~~~~~っ!?」」
二人の身体が宙に舞い、旗のようにはためく。
「何やってんのよおおおおおおおおっ!?」
「どどど、どういう筋力してますのおおおおおっ!?」
無理やり振り解こうとしたら罰を受けることが分かっているようで、生活拠点に辿り着くまで、二人はただひたすら悲鳴を上げ続けた。
走り続けること数十分。
ようやく生活拠点が見えてきて、俺はゆっくりと速度を落とした。
二人からも手を放してやる。
「し、死ぬかと思ったわ……相変わらず出鱈目なやつね……」
「あたくし、少しチビってしまいましたの……」
げっそりとした様子の彼女たち。
お陰でもう喧嘩をする気力もなさそうである。
「この人間の男、見かけによらず、なかなかやりますわね……。なぜボスが護っていたはずのダンジョンコアが破壊されたのか、理解できましたわ……」
そこでエミリアは吹っ切れたように、
「こうなったら仕方がありませんわ! このダンジョンを思い切り盛り立ててやりますの! あたくしのダンジョンを破ったのですもの、きっと相応のポテンシャルがあるはずですわ!」
「言っておくけど、エミリア。その期待はしない方がいいと思うわ」
「畑に果樹園に養殖場……魔物はどいつもこいつも弱そうなモフモフ……トラップも名ばかりのものしかなく……あたくしはこんなやつに負けたんですのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます