第49話 意外と慎重派なんだな
大きな滝のあるフロアで、サハギンの上位種が襲い掛かってきた。
ずどんっ!
「ギョギョッ!?」
その腹に遠隔掘り攻撃を叩き込んでやった。
まだ少し距離があったため、身体の表面が僅かに抉れる程度だったが、それでも何の前触れもなく受けたダメージに戸惑っている。
俺はすかさず連射した。
「ギョギョギョギョッ!?」
何発か喰らって、ようやくこれが俺の攻撃だと理解したらしい。
巨漢サハギンはいったん飛び下がって、滝壺の中に退避してしまった。
「意外と慎重派なんだな。ん?」
それと入れ替わるように、通常のサハギンたちが滝壺の中から次々と姿を現した。
「おいおい、結構な数だぞ」
全部で二十体を超えるサハギンたちが、一斉に俺一人に向かってきた。
「ギョギョギョッ!!」
「「「ギョギョッ!!」」」
何かを命じているのか、巨漢サハギンの叫び声に、サハギンたちが応じている。
魚語はまったく理解できないが、何となく察することができた。
「滝壺まであいつを引きずり込めってか」
自分に有利な水中戦に持ち込むつもりなのだろう。
だが生憎とそれに応じる気はない。
飛びかかってくるサハギンたちの攻撃を躱しつつ、俺は遠隔掘りで反撃していく。
雑魚が何匹集まってきたところで、今の俺を倒すことはできない。
と、そのときだった。
巨漢サハギンが引き起こしたのだろう、滝壺の方で大きな波が発生し、こちらに押し寄せてきた。
ザバアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!
「~~~~っ!」
さすがに波を回避することはできず、呑み込まれてしまう。
そうして滝壺の中まで引きずり込まれてしまった。
「(なるほど。さっきのやり取りは時間を稼げって意味だったのかもな)」
一気に水底付近まで到達し、その水圧に苦しむ俺に、悠々とした泳ぎで巨漢サハギンが迫ってくる。
やはり水中での戦いはこちらが不利だ。
腕を動かすだけでも、抵抗が大きくて陸上よりずっと遅い。
一方の相手は、まさしく水を得た魚だ。
「(まぁ、その
俺は軽い手首の返しだけで――この方が水の抵抗が少ない――まずは手元の水を掘った。
するとその部分の抵抗が消失するので、次はもう少し広い範囲で腕を動かし、周辺の水を掘る。
それを繰り返していくことで、俺の周りから完全に水が消えた。
無論、できた空間が周囲の水ですぐに押し潰されてしまうが、すかさずその水を掘ることで維持する。
――スキル〈高速掘り〉を獲得しました。
そこへ巨漢サハギンが突撃してきた。
繰り出された三又の槍の刺突を、俺は右手の一掘りで消し去ると、左手で驚愕する巨漢サハギンの頭部を直接掘ってやった。
遠隔掘り攻撃は、距離が近ければ近いほど威力が高くなる。
当然、最強はゼロ距離だ。
頭の方からこちらに突っ込んできたのが、こいつの運の尽き。
直接その頭に手を触れることができるのなら、頭部を丸ごと消し去るのも不可能ではない。
頭が消失した巨漢サハギンが、水の中をフワフワと浮遊する。
俺は他のサハギンたちを蹴散らしつつ、滝壺から脱出した。
「さて。何となくボスモンスターっぽいやつを倒したが……どっちに進めばいいんだ? この滝を登るのか? いや……こうした滝って、裏側に隠し通路があったりするのがセオリーだよな……おっ、マジであったぞ」
滝壺を迂回し、滝の裏側に回ってみると、奥に続く道らしきものを発見した。
そこへ足を踏み入れてみると、その先にあったのは、宙に浮かぶ正八面体の水晶である。
「ダンジョンコアだ。やっぱり綺麗だな……」
これを破壊するというのは少し気が引けるが、放っておくとうちの方が破壊されかねない。
動かそうとしてもビクともせず、このまま持ち運べそうにもないので、
「勿体ないけど、壊すしかないか」
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