第42話 只者ではないようです

 私の名はメレン。

【暗殺者】のジョブを有し、今はとある商会の従業員をしています。


 元々はこのジョブを活かして、実際に暗殺の仕事を請け負っていました。

 当時は界隈でも名の知れた存在だったと自負しています。


 けれどあるとき仕事に失敗し、犯罪奴隷となりました。

 犯罪奴隷の多くは、死ぬまで過酷な強制労働を科せられ、その大半が五年も生きることができないと言われているほどです。


 唯一、救われる可能性があるとしたら、ご主人様に買われること。

 当然それには相当な大金が必要で、その恩恵に預かれる人間はごく一握りです。


 そんな私の前に現れたのが、キンノスケ様でした。


 キンノスケ様は、私を一目見るなり、買いたいと言われました。

 そして信じられないことに、本当に大金を叩いて私を買い取ってくださったのです。


「なぜ私を?」

「拙者の商売人としての勘が、貴殿を買うべきだと主張してきたのでござる」

「……なるほど」


 自信満々に豪語するキンノスケ様の妙な説得力に、そのときの私は、きっと著名な商人に違いないと確信しました。

 ええ、まさかまだ何の商売も始めていないとは、思ってもみませんでした……。


 なんなら、どんな商売をしていくかも決めていないようでした。

 こいつ大丈夫かよ……と思いはしましたが、買われた身では逃げることもできません。


 厳しい魔法契約が結ばれているため、もし逃げようものなら、命が奪われる危険性があるのです。

 ましてやぶち殺すのもゲフンゲフン。


 それにしても、一体どこに私を買う資金があったのでしょうか。

 見た目の割に年齢も低いようですし、貴族のボンボンなのかと思っていると、彼は異世界から召喚されてきた勇者だったのです。


 しかも【商王】のジョブを持ち、そのため王宮から出資を受けていたそうです。

 道理でお金があるわけです。


 もっとも、私を買うのにその大部分を使ってしまったようですが……。

 ……本当に〝勘〟とやらがあてになるのか……正直、不安しかないです。


 そんなある日のこと。

 偶然にも私は、キンノスケ様のご友人である勇者様に出会いました。


「(勇者というにはあまり強くはなさそうですね。まぁキンノスケ様のように、非戦闘系のジョブなのでしょう)」


 昔の経験から、ついそんな分析をしてしまう私です。

 相手の強さがどの程度か、見ただけで大よそ分かってしまうのです。


 ですが彼に連れられ、キンノスケ様と一緒にダンジョンにやってきたときでした。


「(~~~~っ!? こ、この凄まじい威圧感は……っ? ダンジョンのせい……?)」


 急に全身が総毛立つような感覚に襲われ、私は慌てて周囲を見回します。

 凶悪なダンジョンに立ち入ったときや、恐ろしい魔物に遭遇したときには、確かにこうしたプレッシャーを覚えることがあります。


 けれど威圧感の正体を探っていくと、それがすぐ目の前の、特定の箇所から発せられていることが分かってきました。


「(まさか……マルオ様から……?)」


 少し近づいてみると、その感覚が急激に増していきました。

 全身の汗が止まらず、身体が震え出すのが分かりました。


 間違いありません。

 明らかにマルオ様が原因です。


「(でも、なぜ急に……? ダンジョンの中に入ったから……?)」


 キンノスケ様の護衛のつもりで付いてきましたが、もしマルオ様がその気になったなら、果たして守り切れるものか……。


 幸いにもその不安は杞憂に終わってくれましたが、勇者様というだけあって、どうやらこの方、只者ではないようです。


 その後、本当にこのダンジョン内に畑や果樹園があって、信じられないほど美味しい野菜や果物が幾らでも収穫できることが確認できました。

 こんな農作物が採れるダンジョンなんて、聞いたことないんですが……。


 さらにこのダンジョンには、可愛らしいモフモフの魔物たちが多数棲息していることが分かりました。


「(めちゃくちゃ可愛いんですけどおおおおおおおおおおおっ!)」


 もし外に持ち出せるなら、こっそり連れて帰ってペットにしているところでしたね。

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