第40話 そういうわけにはいかぬでござる

 異世界で商売をしていくという金ちゃんを、俺のダンジョンに連れてきた。

 うちで収穫できる野菜や果物を彼に売ってもらおうと考えていて、そのためにも一応、出所を見せておいた方がいいと思ったのだ。


 もちろん俺がダンジョンを作っていることは、王宮に黙っておいてくれるように約束してある。


「……私もダンジョンには何度か潜ったことはありますが、こんな場所は見たことないです」


 と驚いているのは、金ちゃんの商会で従業員をしているメレンさんだ。

【暗殺者】のジョブを持つ彼女とは、特殊な魔法契約を結んでいるようで、業務上、知り得たことを外部に漏らす心配はないという。


 ちなみに今後もっと商会が大きくなっていったら必要になるからと、護衛として雇っているらしい。

 ……と言いつつ、もしかしたら敵対者を始末したり……うん、詳しくは訊くまい。


「試しにちょっと食べてみるか? そのままでも十分美味しいから」

「では、一口……」


 畑から引っこ抜いたばかりのニンジンに、そのまま齧りつく金ちゃん。


「~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」


 目を大きく見開き、叫んだ。


「ううう、美味すぎではござらんかああああああっ!? これ、本当にニンジンでござるか!? 果物のような甘さでござるよ!?」

「採れたてっていうのもあるだろうけど、元の世界で食べてた野菜よりも美味しいだろ?」

「これは確実に売れるでござるよ!」


 それからさらに果物や魚も紹介する。


「果物なんて、この世界では超高級品でござるよ。しかもこの辺りには海がないから、新鮮な魚は滅多に食べることができないでござる……ほ、本当にこんないいものを拙者に扱わせてくれるでござるか!?」

「ああ。幾らでも手に入るしな。収穫してから、だいたい三日くらいでまた育つんだ」

「三日!?」


 放置していれば勝手に増えてくるし、収穫作業を除けばこちらがやることも全然ない。

 リアル農家が聞いたら怒られそうなお手軽具合だ。


「必要なら生産量を増やすこともできるぞ」


 ポイントを消費するだけで、畑フィールドも果樹フィールドも無限に作り出せる。


「チート過ぎではござらんか……?」


 というわけで、金ちゃんの商会を通じて、野菜や魚を販売してもらうことになった。


「もちろん相応の報酬は払うでござるよ」

「タダで作れるんだから別に要らないけどな」

「そういうわけにはいかぬでござる」


 具体的な金額や当面の取引量、それから運搬方法などを話し合っていると、そこへアズがやってきた。


「ちょっと、誰よ、そいつらは?」

「勇者仲間だよ」

「っ、また勇者……っ?」


 アズは警戒したように金ちゃんたちを睨みつける。

 相変わらず勇者に対するイメージが悪いようだ。


「その子は誰でござるか?」

「ええと、説明するとややこしいんだが……まぁ、簡単に言うと本当はこのダンジョン、彼女のものだったんだが、それを俺が横取りしてしまってさ。結果、今は俺がマスターで、彼女はサポーターって感じだな」

「ううむ、こんな可愛い子を……丸夫殿も隅に置けぬでござるな」

「話、聞いてたか?」


 さらに子供たちもわらわらと集まってくる。


「子供がいるでござる?」

「色々あって、このダンジョンで保護することにしたんだ」

「……女の子ばかりでござるが?」

「言っておくが、やましいことは一切ないぞ? あと、一人は男の娘だからな」


 見知らぬ客人に彼女たちも少し警戒していたので、俺は心配する必要はないと伝えた。


「彼らは俺の勇者仲間、とその従業員だ」

「えっ、このおじさんも勇者なんですか?」

「おじっ……」


 シーナにおじさん呼ばわりされて、金ちゃんがショックを受けたように頬を引き攣らせる。

 確かに金ちゃん、貫禄があるせいか、あまり高校生には見えないな。


「私も最初に会ったときは同年代かと思いました」

「メレン殿まで!?」

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