第39話 これがうちの畑だ
「おおっ、丸夫殿ではござらぬか! 久しぶりでござるな! 元気にしておったでござるか?」
助けた女性に連れられて、とある建物にやってくると、出迎えてくれたのはクラスメイトの坂口金之助だった。
なぜか武士っぽい喋り方をする男だが、その人懐っこい性格もあって、クラスの人気者の一人である。
ちなみにみんなから「金ちゃん」という愛称で呼ばれている。
「まぁ、ぼちぼちな。金ちゃんはこの異世界で起業したのか?」
「そうでござるよ」
金ちゃんのジョブは確か、【商王】だったか。
戦闘向きではないため勇者としてはユニコーン級に指定されていたが、商人系のジョブとしては最上級に位置付けられているらしい。
「すごいな。この建物も随分と立派なものだし……」
この世界に来てまだせいぜい一か月くらいだ。
見知らぬ世界でゼロから商売を始めたとして、普通ここまで順調にいくとは思えない。
「いやいや、これはまだほとんどただの箱でござる。具体的なことはこれからでござるよ」
「……そのお金はどこから?」
「拙者の
ふっふっふ、と悪い笑みを浮かべる金ちゃん。
しかし立派な建物に加え、従業員を集めるのに、資金の大半を使ってしまったらしい。
さすがに博打が過ぎないかと思ったが、きっと自信があるのだろう。
「なにせ〈超商売運〉という、ありがた~いスキルを持っているでござるからな! きっと上手くいくでござるよ!」
「運任せかよ!?」
「ビジネスにおいて運は何よりも重要でござるよ」
考えてみたら、このファンタジー世界だ。
迷宮神とかいう神様も実在しているようだし、運というものも、より確かな存在なのかもしれない。
「ところで、うちの従業員を助けてくれたと聞いたでござる」
「ああ、たまたま裏路地で変な男たちに絡まれてるのを見つけて」
その従業員は、メレンさんというらしい。
「その連中、命拾いしたでござるな」
「……? どういうことだ?」
金ちゃんの物言いに違和感を覚えて訊き返す。
「実は彼女、こう見えて【暗殺者】のジョブを持っているでござる。以前は実際にそういう仕事をしていたそうでござるが、ひょんなことからうちで雇うことになったでござるよ」
「自分ではしっかり更生したつもりなのですが、なかなか当時の感覚が抜けきらず……今でも時々、無性に人を始末したくなるのです」
にっこり微笑んで物騒なことを言うメレナさん。
「先ほども、マルオ様に助けていただかなかったら危ないところでした」
……どうやら俺が助けたのは彼女ではなく、あの男たちの方だったみたいだ。
とそこで、ふとあることを思いつく。
「そういえば、どんな商売をしていくかはまだこれからなんだよな?」
「そうでござるが?」
「もしかしたらいい商材があるかもしれないぞ」
「まさか丸夫殿が、王宮を出た後にダンジョンマスターになっていたとは……」
「色々と偶然が重なった結果な」
俺は金ちゃんを連れて、ダンジョンにやってきていた。
「ほら、見てくれ。これがうちの畑だ」
「……本当にダンジョンの中に畑があるでござる」
目を丸くする金ちゃん。
「放っておくと勝手に育ってくれるんだが、これがまた絶品なんだよ。現状かなり余ってるし、どこかで売ってみようかと考えていたところだったんだ」
ちょうどそのタイミングで、クラスメイトと出会ったのだ。
しかも都合のいいことに、この異世界で商売人をしていくというのである。
見知らぬ商人にお願いするより、金ちゃんの方がよほど信頼できるしな。
「ついでにあっちは果樹園で、向こうは養殖場になってる」
「果物や魚まで!? そんなダンジョン、聞いたことないでござるよ……」
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