第37話 ここで暮らしたい
「お、お兄さんっ……だ、大丈夫でしたかっ!?」
子供たちのところに戻ると、一斉にこちらに駆け寄ってきた。
心配していたのか、みんな顔色がよくない。
「ああ、あっさり撃退してやったぞ」
「ほんとですか!?」
「ダンジョンの外に放り出して、入り口も埋めておいた」
「やった! じゃあ、もう追いかけてくることはないってこと!?」
「そのはずだ」
互いに喜び合う子供たち。
「……み、見かけによらず強いのね」
「見かけには余計だ」
黒髪の少女マインが少し失礼な言い方をしたので訂正したが、実際に戦ったのは俺じゃない。
……あえて説明する必要はないが。
まぁ俺も戦えるけどな?
ただ俺の場合、攻撃にコントロールが効かないので、人間を相手にあまり戦いたくないのだ。
と、そこで不意に金髪の美少女ミルカが口を開いた。
「ねぇ、お兄さん」
「ん、何だ?」
「わたし、ここで暮らしたい」
「え?」
あまりにも唐突な言葉に、一瞬呆気に取られてしまう。
「どういうことだ?」
「だって、身寄りなんてない、ひ弱な子供だもの。このまま外に出たところで、生きていけるかも分からないし。また攫われて奴隷にされるかもしれない。だけどここなら安全そうだし、食べ物もあるし、お風呂もあるし、可愛い魔物もいる。お兄さんも悪い人じゃない。……たぶん」
……俺は悪い人じゃないぞ?
悪い人もそう言うだろうけど。
「もちろん、タダでとは言わない。何かできることがあれば、ちゃんと働く」
話を聞いていた他の子供たちも口々に声を上げた。
「わ、私もここにいさせてほしいです!」
「リッカも!」
「ぼ、ぼくもっ……ご迷惑じゃなければっ……」
「ちょっ、あんたたち勝手にズルいわよ! だったらあたしも……っ!」
みんな必死だ。
まだほんの子供だというのに、きっと平和な国で生まれ育った俺には想像がつかないくらい、過酷な人生を送ってきたのだろう。
「そうだな――」
「残念だけどお断りさせてもらうわっ!」
俺が返事をする前に、いきなりアズが叫んだ。
「おい何でお前が答えてるんだよ?」
「だって、ここはダンジョンなのよ!? 子供の住むような場所じゃないわ! 魔物はモフモフなのばっかりだし、要らない設備やトラップばかりだし、ただでさえダンジョンっぽくないってのに、子供までいたらもう完全にアトラクション施設じゃないのよおおおおおおっ!」
涙目で必死に訴えてくるアズだが、無視することにした。
「別に構わないぞ」
「えっ、いいんですか……?」
「お姉ちゃんがめちゃくちゃ反対してるけど……」
「こいつのことは気にしなくていいから」
ダンジョンマスターは俺だからな。
そもそもアズが言う最強最悪のダンジョンなんて、作る気はさらさらない。
「その代わり、畑の収穫とか魚釣りとかやってもらうぞ」
「「「はいっ!」」」
「みんなの部屋を作らないとな。トイレとか風呂ももっと必要だろう。……そうだ」
俺はあることを思いつく。
「せっかくだし、自分の部屋を自分で掘ってもらうとしよう」
俺の【穴掘士】のスキルによって、アンゴラージですら土を掘ってダンジョンの拡張ができるのだ。
非力な子供たちでも、時間をかければ小さな部屋を作るくらい可能だろう。
「さすがにスコップは必要だよな」
俺はいったん地上に出ると、街で五本分のスコップを調達してから戻ってきた。
「こ、これで穴を掘るんですか……?」
「ああ。最低でもあのベッドが入るくらいの大きさはな」
「結構な大きさだよ!?」
「すごく大変そう……。で、でも、頑張ります……っ!」
それぞれスコップを手に、壁を掘り始める子供たち。
「あれ? 思ってたより簡単に掘れてく……?」
「不思議。そんなに力が要らない」
「これなら楽勝だわ!」
ザクザク掘り進めていく子供たち。
それから穴掘りに没頭していったのだった。
――スキル〈穴掘り隊長〉が進化し、スキル〈穴掘り将軍〉になりました。
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