第36話 なんかすごく可愛いのだけは分かる
「あのガキども、こんなところに逃げ込みやがったのか」
忌々しげに舌打ちしながら、人相の悪い男が吐き捨てた。
奴隷商人を生業としている彼は、商品を連れて王都に向かっているところだった。
しかし夜中にその商品が脱走。
お陰で大捜索する羽目になってしまったのだ。
そして見つけたのは、大木の幹に隠れるように空いた大きな穴だ。
子供ならすんなり入れるほどの大きさで、大人でも頑張れば十分に入ることができるだろう。
子供のものと思われる足跡が残っているし、散々あちこちを捜し回っても見つからなかった。
この中に逃げ込んだとしか考えられない。
足を踏み入れてみると、入り口から想像していた以上に広い穴だった。
天井も高く、大人が余裕で通ることができそうだ。
ランタンで奥を照らしてみると、どうやらかなり先まで続いているようで、むしろ洞窟と言った方がいいかもしれない。
「おい、お前、先に行け」
「えっ、俺がっすか?」
最近雇ったばかりの男を先に行かせることにした。
「当然だろ! ダンジョンだったらどうするんだ!」
「(その場合はとっくにガキども死んでると思うけどな……)」
嫌そうな顔をする男を怒鳴りつけ、奥へと進んでいく。
他にも三人の護衛をつけているので、五人での探索だ。
「かなり広いっすね……マジでダンジョンかも……」
先頭を恐る恐る進みながら、【盗賊】の男が呟いたときだった。
「っ……なんか奥にいるぞ?」
「ガキどもか!」
「いや……それにしては白くて丸いような……」
目を凝らしてよく見てみるが――
「ぷぅぷぅ」
「……やっぱり何の生き物かまったく分からん」
「だがなんかすごく可愛いのだけは分かる」
「鳴き声も可愛いぞ」
奴隷商人の男が叫んだ。
「もしかしたら新種の魔物かもしれん! 少なくとも希少種なのは間違いない! きっと高値で売れるぞ! おい、捕まえろ!」
「ぷぅ!?」
「あっ、逃げやがった!」
こちらの怒号に驚いたのか、謎の生き物が洞窟の奥へ逃走する。
男たちはすぐにそれを追いかけた。
「待ちやがれ!」
「おい見ろ! 一匹だけじゃない! 何匹もいるぞ!」
「ふはははははっ! こいつは怪我の功名だ! ガキどものお陰で、まさかこんな鉱脈を発見してしまうとはなぁっ!」
奴隷商人の男が高らかに哄笑した、そのときである。
「ん、一匹こっちに向かってくるぞ?」
「自分から捕まりにきたか!」
「なんか、他のよりちょっと大きいような……」
「いや、ちょっとどころじゃないっすよ!? ぶ、ぶつかっ――」
「ぷぅううううううううっ!」
「「「ぎゃああああああああああっ!?」」」
巨大な謎の白い塊に猛スピードで激突されて、男たちは十メートル以上も吹き飛ばされてしまったのだった。
◇ ◇ ◇
「気絶してるな」
「ぷぅぷぅ」
「まとめてタックル一発だったって? よしよし、よくやってくれたな」
「ぷぅ~」
侵入者の一報を受け、すぐに駆け付けたのだが、着いたときにはすでにビッグアンゴラージ(一段階強化済み)が対処してくれていた。
臆病でゴブリン相手にも逃げ出すアンゴラージと違い、上位種のビッグアンゴラージは戦力になる。
一段階の強化をしたこのビッグアンゴラージなら、オークを単体で撃退できるほどだ。
「こいつらどうするかな? 奴隷商人って、この世界じゃ違法なのかもよく分からないし……まぁ外に放り出しておくか」
アンゴラージたちに手伝ってもらって、五人の侵入者をダンジョンの外へ運び出し、その辺に転がしておいた。
「この入り口を閉鎖しておけば大丈夫だろ」
一番近い他の入り口でもここからかなり離れているし、それを探すのは容易ではない。
入り口を土で埋めてしまえば、二度と入ってくるようなことはないはずだ。
「穴は消えてるし、目を覚ましたときにはそろって変な夢でも見てたと思うかもな」
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