第35話 ……二刀流?
「おい、まだ見つからねぇのか! ったく、いつまで時間かかってんだよ! こういうときのためにてめぇを雇ってるんだろうが!」
「す、すいやせんっ……なかなか、痕跡が見つからず……」
みすぼらしい格好の男が、雇い主に怒鳴られていた。
このままではマズいと、男は目を血眼にして辺りを懸命に見回す。
「(つーか、そもそもこういう人間の捜索は苦手なんだよっ……)」
【斥候】のジョブを持つ者ならともかく、彼のジョブは【盗賊】だ。
気配を消して家屋などに忍び込み、希少な物品を探し当てるのが本職で、逃げた人間を追うのはあまり得意ではない。
この世界で、ジョブを与えられた者は、それだけで神に祝福されたエリートだ。
しかしその中には、逆に世間から忌み嫌われるジョブもあった。
その一つが【盗賊】である。
このジョブを持つことを知られたら、なかなかまともな仕事に就くことができない。
そのまま盗賊になる者や冒険者になってダンジョン攻略などに貢献する者も少なくないが、彼は違法な商売を行う組織などに、その技能を売ることで生計を立てていた。
「っ……これは……」
とそこで、ようやく彼はそれらしき痕跡を発見する。
それは小さな足跡で。
「この大きさは明らかに子供のサイズ……あの穴に続いているな」
◇ ◇ ◇
「いや、ここは本当にダンジョンなんだ」
「えっ……で、でも、ダンジョンは魔物がたくさんいる、恐ろしいところだって……」
「一応、魔物もたくさんいるぞ。……モフモフなのが」
「ぷぅ!」
「わう!」
「くるる!」
「にゃあ!」
「「「この子たち魔物なんですか!?」」」
どうやら魔物だとは思っていなかったようだ。
さらに俺はモフモフたちを集合させた。
「「「「「「ぷぅぷぅぷぅ」」」」」」
「「「「「「わんわんわん」」」」」」
「「「「「「くるるるる」」」」」」
「「「「「「にゃあにゃあ」」」」」」
「「「しかもめっちゃいる!?」」」
集まったのは、二百体を超えるモフモフたちだ。
どの子も例外なく白いモフモフなので、こうして集結すると自分たちが雲の上にいるのではないかと錯覚してしまう。
しかもこれで全部ではない。
スモークトレントは森の中だし、何体かは今もダンジョンを拡張するため、土を掘り続けてもらっている。
合計するとすでに三百体近い魔物がいるだろう。
「お風呂や畑もあるし、どんなダンジョン? 聞いたことない」
ミルカが少し呆れたように訊いてくる。
「正直、俺にもよく分からないんだよ。ダンジョンマスターの性質によって、どんなダンジョンを作れるかが変わってくるらしいんだが……」
勇者として異世界から召喚された後、偶然ダンジョンコアを見つけ、ダンジョンマスターになってしまったことを彼女たちに話してみた。
「じゃあ、お兄さんは勇者でありながら、ダンジョンマスターってこと!? すごいじゃん!」
リッカが手を叩いて絶賛してくれる。
「ま、まぁ、いま流行りの二刀流ってところだな」
「……二刀流?」
どうやら二刀流は通じないらしい。
それはそうか。
「えっと……その、この子たちは、どうやって生まれてくるんですか……?」
ノエルがおずおずと質問してくる。
「ダンジョンポイントっていうのがあって、それを消費することで生み出すことができるんだ。……こんなふうに」
ポメラハウンドを作成すると、壁からぬっと四つ足が生えてきた。
「「「っ!?」」」
「壁から生まれてくるんだよ。どこから出てくるかは毎回違って、お尻からのときもあれば頭からのときもある」
「しゅ、シュールですね……」
ぽろりと床に転げ落ちたポメラハウンドは、すぐに立ち上がって「わん!」と鳴いた。
野生動物は生まれてすぐ立ち上がるというが、ここで生まれた魔物はその瞬間から動き回ることができる。
『警告。ダンジョン内に侵入生物です。人間と思われる四人組です』
そのとき再びシステムからの警告。
「また誰か入ってきたみたいだな。四人組ってことは、天野たちか? いや……これは、さっきと同じ場所?」
子供たちがダンジョンに入ってきたのと同じ出入り口からの侵入者だ。
「それって……まさか、追手が……っ!?」
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