第34話 ここはダンジョンよ?
畑で収穫した白菜や大根、長ネギ、かぼちゃ。
それに養殖場で釣り上げた魚。
採れたてということもあるだろうが、どれも驚くほど美味しくて、元の世界であっても一級品と言えるようなレベルだった。
この異世界基準だと、明らかにそれ以上である。
一度王都の市場を見に行ったのだが、そこで手に入る野菜などは、正直、鮮度もあまりよくなく、味もイマイチだ。
魚に至っては、ほとんど腐りかけて、もはや食べられるようなものではない。
恐らくこのダンジョン産の食材を王都で販売したら、めちゃくちゃ稼げるはずだ。
フィールド変更によって畑も養殖場も無限に増やすことができるし、収穫量も問題ない。
「食材のお陰で、ほとんど味付けなんてしなくても美味しいからいいよな。そもそもこの世界、ロクな調味料なんてないし」
ちなみに子供たちは喋ることも忘れ、ひたすら食べ続けている。
味もそうだが、きっとお腹が空いていたというのもあるだろう。
「まぁ食事が要らない誰かさんまで食べまくってるけどな?」
「はぐはぐはぐっ……え?」
アズだ。
俺のジト目に気づいて、恥ずかしそうに顔を背ける。
「べ、別にいいじゃないのよ!? あたしも収穫を手伝ってあげたんだし!」
「畑なんて要らないと言っていたのは誰だったか」
結構な量を用意したつもりだったが、子供たち(+アズ)はあっという間に食べ尽くしてしまった。
「「「美味しかったぁ……」」」
「果物もあるぞ」
「「「果物まで!?」」」
果樹園からはリンゴや桃、ブドウなどが収穫できるようになっていた。
「「「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」」」
幸せそうに果物を食べる子供たち。
「すっごく甘い! 果物ってこんなに美味しいんだ!」
「食べたこと一度だけあるけど、ここまでじゃなかった」
「うぅ……こんな美味しいものを食べれるなんて、生きててよかったですぅ……」
果物は高級品だからか、今までほとんど食べたことないようだ。
感動で泣き出してしまった子もいた。
そうしてお腹が膨れ、すっかり警戒心もなくなった彼女たちに、俺は先ほど聞けなかったことを改めて訊ねた。
「何で子供だけでこの洞窟に?」
「実は……」
最年長のシーナが代表して教えてくれたことによると。
どうやら彼女たちは身寄りのいない孤児らしい。
しかし元々面識などなく、それぞれ別々の街で暮らしていたところを、見知らぬ大人たちに攫われたという。
「……それは奴隷商でした。各地で私たちみたいな子供を捕まえて、奴隷として売り払うそうです」
それで全員が見目の優れた少女たちなのだろう。
一人、男の娘がいるが。
「私たちはその中でも選抜されて、王都の地下競売にかけられる予定だったようです。馬車が引く檻に入れられて……。ただ夜中、警備に隙ができた瞬間を見計らって、みんなで逃げ出したのです」
逃げるところまでは上手くいったという。
しかしすぐに逃げたことがバレてしまい、追手が迫ってきた。
それをどうにか一度は撒いたものの、子供だけの集団だ。
大人の集団からいつまでも逃げ続けることは難しい。
そんなときに、運良く身を潜められそうな穴を見つけたのだという。
「まさかその穴の奥に、お兄さんがいて、こんな場所まであるとは思わなかったです。私の怪我も治してくれましたし……本当に幸運でした。実は途中まで魔物の巣じゃないかと、ビクビクしてたんです」
「ね! ましてやダンジョンじゃなくてよかった!」
安堵したように言うのはリッカだ。
いやここ、ダンジョンなんだけどな?
まぁいい感じで勘違いしてくれてるし、あえて言わなくても――
「なに言ってんのよ? ここはダンジョンよ?」
「「「え?」」」
……アズが空気を読まずに言ってしまった。
「残念ながら全然そうは見えないけど! だいたい子供がこんなにまったりしているダンジョンとか、どういうことなのよ!」
しかも勝手に激怒しているし。
「今の今までその子供と一緒に、美味しそうにメシを食ってたのはどこのどいつだ?」
「うっ……」
シーナが恐る恐る訊いてくる。
「あ、あの……冗談、ですよね?」
ここで嘘を吐くよりも、しっかり説明しておいた方がいいだろう。
幸い頭のいい子たちだし。
俺はそう判断して、真実を話すことにしたのだった。
「いや、ここは本当にダンジョンなんだ」
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