第33話 召し上がれ
「アズ、作っている間、お風呂に入れてやってくれ」
「何であたしが!?」
「他にいないだろ。俺以上に料理できないんだし」
お風呂を設置する前は水魔法で水浴びをしていたアズだが、やはりお風呂の方が断然気持ちがいいようで、最近は毎日のように入っていた。
「はぁ、仕方がないわね」
溜息を吐きつつも、大人しく命令に従うアズ。
子供たちを連れて、お風呂専用に掘った穴に入っていく。
「すごい、こんなとこにお風呂だ!」
「でもお湯はどこから?」
「えっ、ここからですか? わっ、ほんとですっ!」
しばらくすると、お風呂の方から驚く声が響いてきた。
と同時に、誰かがこっちに戻ってくる。
銀髪少女、ノエルだ。
「どうしたんだ? みんなと一緒にお風呂に入らないのか?」
「あ、あの……それが、その……」
「ん?」
首を傾げる俺に、ノエルは申し訳なさそうに告げた。
「ぼ、ぼく……男、なんで……」
マジか。
てっきり女の子とばかり思っていた。
なるほど、だからあのとき怯えながらも、四人を守ろうと立ち塞がったんだな。
男らしいのは男だったからか。
しかし改めてよく見てみても、美少女にしか見えない。
これが本物の男の娘というやつか……。
「悪いな。髪が長かったから、ついそうかと」
「だ、大丈夫です……その、よく間違えられるので……」
まぁそうだろうな。
「じゃあ、お風呂はみんなが上がってきてからだな」
「は、はい」
それからしばらくして、髪も身体もすっかり清潔になった女の子たちが戻ってきた。
アズが洗って魔法で乾かしてくれたのか、服も少し綺麗になっている。
「お風呂、気持ちよかったです……っ!」
「シーナ、久しぶりに臭くない」
「何で私だけ!? ミルカちゃんも臭かったじゃないですか!」
というか、改めて美少女ばかりだな。
王都を何度か歩いているが、異世界だからといって、決して美男美女ばかりというわけではない。
見目の優れた子ばかりが、街から離れた入り口からこのダンジョンに入り込んでしまうことになった背景には、恐らく相応の事情があるのだろう。
交代でノエルが慌ててお風呂に向かう一方、女の子たちは匂いに釣られたのか、鍋を煮込む俺のところに集まってくる。
「すごく美味しそうな匂いがするよ!」
「じゅるり……」
「ミルカちゃん、涎が出てます……」
「それは気のせい」
「どう見ても出てるでしょうが」
やがてノエルが戻ってきた頃には、ちょうど具材の方も良い感じに火が通った。
「さあ、召し上がれ」
「ほ、本当に、食べていいんですか……?」
シーナが恐る恐る訊いてくる。
本人は気づいていないかもしれないが、口の端からは薄っすらと涎が垂れていた。
俺は苦笑しながら、
「ああ。むしろ食材が余ってて、食べ切れないくらいあるからな。好きなだけ食べていいぞ」
「わーい! お兄ちゃん、大好きーっ!」
明るく先陣を切ったのはリッカだ。
他の四人もすぐ後に続く。
「「「「うまああああああああああああああああああっ!?」」」」
そして口に運ぶや否や、絶叫した。
「な、なにこのお野菜っ、めちゃくちゃ美味しいですっ!?」
「このお魚もすっごく美味しいよ!」
「というか、ぜんぶ美味しいっ……」
「……こんなに美味しいの、食べたことない」
「はぐはぐはぐっ……」
ふっふっふ、そうだろうそうだろう。
うちのダンジョンで採れた食材は、めちゃくちゃ美味いのだ。
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