第32話 まずはご飯にするか
やってきたのは畑や果樹園、それに養殖場などがあるダンジョン内で最も広い場所だ。
「ねぇ、向こうに畑があるよ! あっちは木が生い茂ってるし!」
「お堀もあるじゃん」
「広~い!」
他の子たちが驚いている中、壁に設置されている扉から部屋の中に。
そこは台所とリビングになっていて、俺は怪我をした少女をソファの上に寝かせた。
「これで治るか分からないが……」
取り出したのは薬草である。
実はうちの畑で採取したものだ。
どうやら野菜だけでなく薬草も勝手に生えてくるらしい。
一応、薬草であることは確認済みだが、まだ一度も使ったことがなく、どの程度の治癒効果があるのかも分かっていなかった。
怪我をした部分にその薬草を当ててみる。
元の世界だと煎じたりすりおろしたりしなければならないはずだが、ファンタジー系の異世界だから、これでも効果があるらしい。
すると少女の傷口が少しずつ修復していく。
顔色も見る見るうちによくなっていった。
どうやら上手くいったみたいだ。
こんなに簡単に傷が治るなんて、さすがファンタジー系の異世界だな。
「もう大丈夫だろう」
一安心したところで、俺は彼女たちの名前と年齢を確認した。
「助けていただいて、本当にありがとうございますっ。私はシーナですっ」
丁寧に頭を下げてきたのは、腹部を怪我していた子だ。
一応この中では最年長の十一歳。
栗色の髪と青い目を持ち、真面目そうな印象の少女である。
「ミルカ。よろしく」
子供なのにやけに落ち着いていて、クールな印象のある子は、十歳のミルカ。
金髪に碧眼、そして子供とは思えないほど端正な顔立ちをしていて、耳の先がかなり尖っている。
もしかしたらエルフかもしれない。
「ぼ、ぼくは、ノエルっていいます……」
ミルカと同い年で、臆病そうな感じの子がノエル。
綺麗な銀色の髪をしていて、すらっとした身体つきで身長も高い。
ずっとビクビクしているが、先ほどは四人を守ろうと前に出てきたし、勇敢なところもあるのだろう。
「リッカだよ、勇者のお兄ちゃん! よろしくね!」
明るく元気な、桃色の髪の少女はリッカ。
人懐っこい感じの女の子で、年齢はまだ九歳らしい。
「……あたしはマインよ」
最後の一人が、少し勝ち気な雰囲気を持つ十歳の少女、マインだ。
黒髪黒目で、西洋人顔が多いこの異世界にあって、比較的アジア人系の顔立ちをしている。
同年代の中でも少し小柄な方だろうか。
「シーナ、ミルカ、ノエル、リッカ、それにマインだな。それで五人とも、どうしてこの洞窟にいたんだ?」
と、そのときだった。
ぐうううううう。
シーナのお腹から、そんな音が鳴ったのは。
「お腹が空いてるのか?」
「うぅ……は、はいです」
恥ずかしそうに頷くシーナ。
しかし空腹なのは彼女だけではなさそうだった。
よく見ると全員かなり痩せている。
身に着けている衣服もみすぼらしいし、恐らくロクなものを食べていないのだろう。
「じゃあ、まずはご飯にするか」
幸いこのダンジョンには食料が豊富だ。
あれから畑で野菜が収穫できるようになったし、養殖場でもすでに魚が釣れるようになっていた。
本当に種すら植えてないのに色んな野菜が生えてきて、養殖場にもどこからともなく魚が現れ、悠々と泳ぐようになったのである。
それらの食材を台所で調理する。
といっても、俺はあまり料理が得意ではないので、適当に切って鍋にぶち込むだけだ。
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