第30話 魔物に食べられる方がマシ

 五人の子供たちが洞窟の中に身を潜めていた。


「わ、わたしたち、大丈夫だよね……? きっと、上手く逃げ出せたよね……?」


 まだ十歳にも満たない女の子が、今にも泣き出しそうな顔で訴える。


「しっ、喋っちゃダメよ。いま声を出したら、あいつらに見つかっちゃうかもしれないわ」


 それを小声で窘めたのは、また別の少女だ。

 子供ながら気の強そう印象だが、しかし本当は恐怖に押し潰されそうになっているようで、身体がガタガタと震えている。


「ねぇ、この穴、ずっと奥まで続いてる。もっと奥に行ってみたい」


 そう提案したのはまた別の少女。

 彼女も十歳かそこらに見えるが、この状況下にあって達観したように落ち着いていた。


「……で、でも、何かの魔物の巣かもしれませんよ?」

「あいつらに見つかるくらいなら、魔物に食べられる方がマシ」

「あっ、待ちなさい……っ! ……し、仕方ないわねっ、みんな行くわよっ」


 意を決し、全員で洞窟の奥へと進んでいく。


 このときの彼女たちはまだ知らなかった。

 ここが恐ろしいダンジョンであるということを。



   ◇ ◇ ◇



 リザードマンを大量に倒したことで、ポイントもたくさん入ってきた。

 それを消費していると、


『おめでとうございます! レベルアップしました! 新しい機能が追加されました』


 レベル6になったみたいだ。


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 ステータス

 マップ

 迷宮構築

 魔物生成

 トラップ設置

 フィールド変更

 魔物強化

 迷宮構築Ⅱ

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「迷宮構築Ⅱ?」


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 拡張(5)

 光源(10)

 トイレ(15)

 風呂(20)

 台所(25)

 迷宮構築F(30)

 迷宮構築G(35)

 迷宮構築H(40)

 迷宮構築I(100)

 迷宮構築J(200)

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「どうやら迷宮構築に新しい項目が追加されたみたいだな」


 早速、ポイントを消費して作成してみることに。

 すると迷宮構築Fは「寝室」であることが分かった。


「キングサイズのベッドだ。ふかふかだし、これはよく眠れそうだな」


 迷宮構築Gは「玄関」で、鍵付きのドアを作り出せる優れものだった。

 インターフォンも付いていて、これによりダンジョンの防犯機能が向上した。


 迷宮構築Hは「リビング」だ。

 テーブルやソファなどが出現し、のんびりとくつろぐことができる。


「もう完全に家じゃないのよ……こんなダンジョン、あり得ないわ……」

「文句を言いながらソファでくつろぐなよ?」


 どうやらアズはソファが気に入ったみたいだ。







『警告。ダンジョン内に侵入生物です。人間と思われる五人組です』


 システムからの警告を受けて、俺は目を覚ました。

 モフモフの魔物たちに囲まれ、ベッドの上で眠っていたのである。


「ふぁああ……」


 欠伸をしながら起き上がる。


 基本的に常にダンジョンの中にいるため、時間の感覚がおかしく、今が何時なのかも分からない。

 ここ最近ずっと眠くなったら寝て、目が覚めたら起きるという生活を送っていた。


 学校に行かなくてもいいし、異世界生活、意外と快適である。


「またあの勇者たちじゃないでしょうね?」


 嫌そうな顔でアズが言う。


「ん~、どうだろう? 今、五人組って言ったしなぁ」


 一番王都に近いところは閉鎖済みなので、もし彼らなら別の入り口から入ってきたことになる。

 マップを確認してみると、王都からはかなり離れた場所にある入り口だった。


「なかなか動かないな? ただの雨宿りとかだったり?」


 侵入者を示す点は、入り口すぐのところでずっと止まっている。

 もしかしたらこのまま帰ってくれるかもしれないと思っていたら、奥に向かって進んできた。


 俺はモフモフたちを何体か引き連れて、その場所まで移動する。

 アズも一緒だ。


「ちょっとどんな連中か、様子を見て来てくれ」

「ぷぅ!」


 偵察としてアンゴラージが一匹、走っていった。

 だがしばらく待ってみても、なかなか戻ってこない。


「もしかしてやられてしまったのか? いや、マップ上にまだいるな。というか、侵入者たちと一緒にこっちに向かってきてる?」

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