第29話 全員じゃないか

「ぼ、僕は穴井くんの状況を、王宮に伝えた方がいいかなと思っているのだけれど……」

「いや、それは絶対やめてくれ」


 久しぶりに喋った大石だったが、俺は即座に拒否した。


「え? あ、う、うん……そ、そう、だよね……」


 まさか一蹴されるとは思っていなかったのか、大石は頬を引き攣らせながら頷く。


「どうしてだ!? 穴井が勇者として蔑ろにされている現状を、オレは友人として看過できないぞ!」

「あたしもあたしも!」


 天野と神宮寺が訴えてきた。

 仲間がいて、少しショックから立ち直る大石。


「その気持ちは嬉しいが、やっぱりやめておいてほしい。アズが言っていたんだが、本来ダンジョンというものは、人間からは危険視されるものらしい。下手に伝えると、面倒なことになる可能性がある」


 特にこのダンジョンは、この国の王都のすぐ近くにあるのだ。

 相手が本気でここを潰そうと考えたら、撃退できる気がしない。


「そうか……じゃあ、オレたちだけの秘密ってことだな!」

「それがいいっしょ! なんかこういうの、ワクワクするし!」


 イケメンとギャルのくせに、物分かりが良くて助かる。


「その代わり、何かあったらまた手伝ってやるからな」

「それは助かります。もちろん丸くんの方も、いつでも私たちに頼ってくれていいですから」

「ああ、ありがとう」


 そうしてドラゴン級の勇者たちを見送ったところで、隠れていたアズが姿を見せた。


「やっと帰ってくれたわね! 二度と入ってこれないよう、この出入口を閉鎖しておきましょうよ!」

「おいおい、随分と勇者が苦手なんだな」

「特にあのオオイシとかいうやつ、前回会ったとき、ずっとあたしのことジロジロ見てたもの!」

「ああ、確かにあいつには気を付けた方がいい」

「ミサトとかいう女も、あたしをずっと睨んでたし!」

「美里が? うーん、そんなことするやつじゃないんだが……」

「あとの二人も、暑苦しかったりテンション高かったりして苦手だわ!」

「全員じゃないか」


 勇者だからというより、単純に人間として嫌っているだけかもしれない。


「とはいえ、確かに閉鎖しておいた方がいいかもしれないな」


 最初に俺が穴を掘り始めた場所で、王都から最も近いダンジョンへの出入り口だ。

 天野たちが入ってきたように、ここを放置しておくと、また誰かに見つかってしまう危険性がある。


「天野たちに言っておけばよかったな。まぁでも、なんとかなるか」


 直線通路だけはそのままにして、入り口部分だけ閉じておくことにしたのだった。



    ◇ ◇ ◇



 ダンジョンを後にした美里は、仲間たちに聞こえないよう、一人小さく呟いた。


「丸くんはああ言ってましたけど、ほとんどの国はダンジョンを滅ぼしたりはせず、そのまま放置しているか、騎士団などで管理していたはず……」


 凶悪な魔物の存在に苦しめられているこの世界にあって、各国の対応が比較的甘く思えるのは、ダンジョンの魔物が外に出ることがないためだ。

 もしダンジョンから魔物が溢れ出してくるのだとすれば、どの国ももっとダンジョンを危険視していただろう。


「それでもダンジョンが忌み嫌われているのは……過去に一つだけその例外があったから」


 歴史上、唯一、危険度Sに指定された魔王とそのダンジョン。

 ダンジョンで生み出された無数の魔物が、人類を絶滅の危機にまで追いやった、史上最悪の大災厄だ。


 つまりそのダンジョンでは、魔物が外に出ることができたということ。


「そして丸くんのダンジョンは、それと同じ性質を持っているってことに……」


 リザードマンの砦を攻略する際、モフモフの魔物たちが何度もダンジョンを出入りするのを目の当たりにしていた。

 それにそもそも彼女自身が、まさに今、ダンジョンの外でポメラハウンドを胸に抱えているのだ。


「……確かに、秘密にしておくのが正解かもしれませんね」

「くうん?」

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