第28話 ちょっと力を貸しただけだって

 ぼよんぼよんぼよん!


 勢いよく転んだリザードマンエリートが、何度もバウンドしながらこっちに飛んでくる。

 初めてのトランポリンに上手くバランスを取ることができず、隙だらけな姿を晒している豚の魔物に、俺は穴掘り攻撃を放った。


 ずどんっ!

 ずどんっ!


「ブギイイイイイッ!?」


 狙ったのは両脚だ。

 足を破壊して機動力を奪ってしまえば、いくらリザードマンエリートといえど、もはやこっちのものである。


「一発じゃダメか。さすがに頑丈だな」


 だが生憎とリザードマンエリートの足に風穴を開けるまでには至らなかった。


 それでも足にダメージを負ったリザードマンエリートは、慣れないトランポリンの上ということもあって、まともに移動することすらできない。

 槍を振り回しても、十分な距離を取っている俺には届かなかった。


 俺は一方的に穴掘り攻撃を連発した。


「~~~~~~ッ!?」


 土のように掘ることはできなかったが、それでも攻撃のたびに肉が弾け、血が噴き出し、リザードマンエリートはどんどんダメージを負っていく。


「「「シャアアアアッ!!」」」

「味方が追い付いてきたか」

「「「~~~~ッ!?」」」

「……ひっくり返ってるし」


 追いかけてきた通常リザードマンたちが、トランポリンで次々と転んで宙を舞う。

 何とも間抜けな光景だが、さすがに俺一人で全員を相手するのは骨が折れる。


 そこで俺は、チンチライオンを作り出すことに。

 幸いリザードマンを大量の倒したことで、かなりポイントが貯まっている。


「「「にゃああああっ!」」」


 外壁から続々と姿を現したネコ科の魔物たちが、トランポリンに苦戦しているリザードマンに躍りかかった。


「「「~~~~ッ!?」」」


 チンチライオンたちの爪がリザードマンの身体を引っ掻き、鋭い牙が肉を抉る。

 モフモフの可愛らしい見た目だが、やはり戦闘力が高い。


 そうこうしているうちに、リザードマンエリートが力尽きる。


 ――【穴掘士】がレベル22になりました。

 ――スキル〈穴戦士〉が進化し、スキル〈穴騎士〉になりました。


 さらにチンチライオンたちの活躍で、追ってきたリザードマンも全滅させることができた。


「よし、この勢いで、どんどんリザードマンをやっつけていくぞ」

「「「にゃ~~っ!」」」






 ダンジョン内をバラバラに行動するリザードマンを順次、仕留めていると、やがて天野たちと合流した。

 どうやら彼らもリザードマンエリートを倒したようだ。


「えっ? 丸くんもリザードマンエリートと遭遇したんですか!?」

「ああ。なんとか倒せたぞ」

「しかも一人で倒したですか!? 私たちは四人がかりだったんですけど……」

「いや、オレもモフモフたちにも協力してもらったからな」


 まぁリザードマンエリート自体は、ほとんど一人で倒してしまったが。


「やっぱりすごいな、穴井は! オレももっと頑張らないと……っ!」

「あなりん、ドラゴン級でもおかしくないっしょ!」


 天野と神宮寺が絶賛してくれるが、【穴掘士】とダンジョンマスターが上手く噛み合った結果だ。


 その後、天野たちはリザードマンの砦へと攻め込んだ。

 あらかじめアンゴラージたちに調査させていたのだが、残っていたリザードマンはせいぜい十体程度で、全滅させるのにそう時間はかからなかった。


「「「わうわうわう!」」」

「もうこの砦内にリザードマンのにおいは残ってないって?」

「「「わう!」」」


 念のため嗅覚の優れたポメラハウンドたちに調べさせたので、間違いない。


「ほんとに助かったぜ、穴井! お陰で無事に任務を達成できた!」

「マジであなりんのお陰っしょ!」

「俺はちょっと力を貸しただけだって」


 任務が完了したので、これから天野たちは冒険者ギルドに報告しに行くという。


「さすがに私たちだけの成果とするのもおかしいですよね。ただ、丸くんは冒険者登録してませんし……せめて相応の報酬だけでもお渡しさせてください」

「そんな気を使わなくてもいいぞ」

「いえ、そういうわけにはいきません。……この子たちをいただいたお礼もしなくちゃいけませんし」

「わう!」


 とそこで、久しぶりに大石が口を開いた。


「ぼ、僕は穴井くんの状況を、王宮に伝えた方がいいかなと思っているのだけれど……」


 俺は即座に拒否する。


「いや、それは絶対やめてくれ」


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