第25話 ジョブにもレベルがあるのか?

 リザードマンエリートが投擲した槍。

 それが高速回転しながら飛んでいった先にいたのは、後方にいた美里だった。


 ジョブ【聖女】を授かった彼女は、超一流の回復役になり得る逸材だ。

 ただ、身体能力はあまり高くなく、そのため常にパーティの後ろの方にいて、仲間たちの治癒や補助に徹していた。


 そんな彼女に迫る槍は、直撃したら一瞬で彼女の命を刈り取るほどの凶悪なものだ。

 しかし当人を含めて仲間たちの誰も、それに対応することができなかった。


 ――一人を除いて。


「危ない!」

「丸くん!?」


 寸前で彼女の前に滑り込んだのは、すぐ近くにいた俺だ。

 背後から美里の悲鳴が聞こえる中、俺はダメ元でいつも土を掘るときのように手を振るった。


「せいっ!」


 ダンジョン内にいれば、魔物の身体ですら掘ることができたのだから、きっと槍くらい掘れるだろう。

 まぁ仮に失敗して死んだところで、王宮で再スタートできるしな。


 俺は男だし、美里と違って裸にそれほど抵抗があるわけでもない。


 ずどんっ!


 おっ、上手くいった。

 だがまだ大きな槍の半分くらいが消失しただけで、残る部分が迫ってくる。


 ずどんっ!


 間髪入れずに二撃目。

 この遠隔無手穴掘りは両方の手でできるため、右手の直後、一瞬で左手の二発目を繰り出すことが可能なのだ。


 そうして槍は完全に消滅し、ただ残った風圧だけが俺の身体にぶつかってきて、吹き飛ばされそうになってしまった。


「っとと……風圧だけでこの威力か。失敗してたら確実に死んでたな」

「ちょっ、いま何やったんですかっ!?」

「詳しいことはリザードマンエリートを倒してからだ」


 美里が物凄い勢いで問い詰めてきたが、まずは敵を片づけるべきだといったん落ち着かせる。


「ッ!?」

「はあああああああっ!」


 武器を失ったリザードマンエリートへ、天野が躍りかかった。

 先ほどは槍で防がれたが、今度こそその斬撃が巨漢の胴部に叩き込まれる。


「シャアアアアアアアアアアアアアッ!?」


 怒りのあまり理性を失っていたのかもしれないが、槍を投げ捨てたのは完全に悪手だったな。

 天野の連撃を前に、リザードマンエリートはもはや成す術がない。


 やがて断末魔の雄叫びと共に、巨体が地面に倒れ伏す。


「ふぅ……なかなかの強敵だったな! にしても、穴井、さっきは一体何をしたんだ!?」

「そうですよ! 急に槍が空中で消失したように見えたんですけど……っ!」

「あなりん、マジで死んだかと思ったじゃん!」

「待て待て。まだ終わってないぞ」


 リザードマンエリートを倒していったん落ち着いたかと思いきや、すでに近くまで第二陣が迫ってきているのだ。


「っ、背後から新手が……っ!」

「こいつらも片づけないと。そりゃ!」


 ずどんっ!


 先頭にいたリザードマンの頭が消失した。

 我ながら完璧なヘッドショットだ。


「えっ!?」

「もう一体っと」


 ずどんっ!


 また別のリザードマンの、今度は腹部に大穴が空く。


 ずどんっ!

 ずどんっ!

 ずどんっ!


 第二陣といってもせいぜい十体くらいで、リザードマンエリートもいなかったので、俺一人でも簡単に全滅させることができたのだった。

 そしてマップを確認しながら告げる。


「よし、これでひとまずダンジョン内に入ってきたリザードマンは、全部倒せたみたいだぞ。……ん? どうしたんだ? そろって呆けたような顔をして」







「ええと、そうだな……たぶん【穴堀士】としての能力だと思うんだが……」


 その後、天野たちにめちゃくちゃ問い詰められたので、俺は簡単に説明したのだった。


「やっぱり土を掘るだけのジョブじゃなかったんだな! 魔物まで倒せるなんて!」

「しかも遠隔でとかすごいじゃん! 素手だし! それでハズレとか、判定したやつ、マジでセンスないっしょ!」

「そうなんだが、まぁ穴の中でしか使えないから」


 ダンジョンの外では無力そのものなのだ。


「ですが、リザードマンを瞬殺できるとなると……丸くん、今レベルはいくつですか?」

「レベル?」

「ジョブのレベルです」

「え、ジョブにもレベルがあるのか?」

「それも知らないのですか……」


 どうやら【穴掘士】もレベルアップするらしい。

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