第24話 細かいことは気にするな

 現れたリザードマンエリートへ、天野が真正面から飛びかかっていく。


「はぁぁぁぁっ!」

「シャアアアアッ!」


 だが天野が繰り出した斬撃は、リザードマンエリートが手にする槍によって止められてしまった。


「ぐっ……なんて力だっ!?」

「シャアアアアッ!!」

「うあっ!?」


 それどころか、勢いよく吹き飛ばされてしまう天野。

 そのまま俺のすぐ足元までごろごろと転がってきた。


 やはり危険度Bに準じる強さの魔物ともなると、駆け出しの勇者には荷が重い相手なのかもしれない。


「シャアアアアッ!!」

「「「シャアアアアッ!」」」


 リザードマンエリートの雄叫びに応えるように、他のリザードマンたちが殺到してくる。


「くっ……なんの、これしき……っ!」

「こいつを回収してくれ」

「くるるっ!」

「っ!? 何を……っ!?」


 すぐに立ち上がって再び挑もうとする天野だったが、その背中をエルダーエナガルーダが咥えて持ち上げた。


「よし、すぐに乗ってくれ! いったん退避だ!」


 俺の合図で、全員が一斉にエルダーエナガルーダの背に乗り込み、リザードマンの群れから距離を取る。

 ちなみに俺は普通にダッシュし、みんなに併走した。


「丸くん足速すぎませんか!?」

「細かいことは気にするな」


 その際、妨害のためにダメ元で地面を足つぼにしてやったら、それを踏んだリザードマンたちの悲鳴が背後から聞こえてきた。


 ……リザードマンにも効くんだな。

 靴を履いていないからかもしれない。


「だがあのリザードマンエリート、かなり厄介な相手だな」


 マップで確認してみると、ダンジョン内には三十体ほどのリザードマンが侵入していた。

 通常のリザードマンであれば天野たちの敵ではないが、リザードマンエリートが率いる群れとなると、そう簡単にはいかないだろう。


「みんな、こっちだ」

「この道は……? なんだか、随分とカーブしていますけど……」

「リザードマンたちの背後に出るルートだ。こんなこともあろうかと思って、新しい通路を作っておいたんだよ」


 もちろん今はまだこの迂回路は未完成だ。

 進んでいった先は行き止まりになっている。


「この壁を掘れば……よし、これで抜けられるぞ」

「いま一瞬で壁が消失しませんでしたか!?」

「ああ。俺が掘ったんだ」

「ど、どうやってですかっ? 近づいてすらいなかったですけど……」

「まぁ詳しいことは後だ。これでリザードマンの群れの背後に出たから、後ろから奇襲ができるぞ」


 ちなみにうちのモフモフたちがリザードマンを引きつけてくれているので、すぐに引き返してくることはないはずだ。


「背後から襲うなんて、勇者がそんな卑怯な真似を……っ!」

「そんなくだらない自己満足な正義感で味方を危険に晒す方が、よっぽど悪ですし、巻き込まれる方としては大迷惑なんですけど?」


 葛藤を見せる天野を、美里が容赦なく一刀両断した。


「わ、分かっている! ……ああ、そうだ! 人々の平和を守るため、オレたち勇者は時に心を鬼にしなくてはいけないんだ!」

「そこまで大それた状況でもないと思いますけど……」


 そうしてリザードマンの集団に後ろから追いつくと、先陣を切って天野が突撃する。


「「「~~~~ッ!?」」」


 動揺している隙を突いて、敵の数を一気に減らしていく。

 モフモフたちのお陰で、リザードマンエリートはまだ後方の異変に気づいてすらいない様子だ。


「シャアアアアアアアアアッ!!」


 集団の大半を倒したところで、少し離れた場所から雄叫びが聞こえてきた。


「っ……気を付けろ、リザードマンエリートが引き返してきたぞ!」

「ここまで数を減らしたなら十分です! 今度こそリザードマンエリートを倒しましょう!」


 通常のリザードマンは残り五体ほど。

 いや、いま天野がそのうちの一体を仕留めたので、四体だ。


 その四体を引き連れて、怒り心頭のリザードマンエリートが姿を現す。


「み、みんな、いったん僕の背後に……っ!」


 先ほどから魔法の詠唱に集中していた大石が叫ぶと、前にいた天野、神宮寺が素早く下がってきた。


「ライトニングストームっ!」


 直後、狭い通路いっぱいを覆い尽くすほどの雷が放たれ、リザードマンの群れを襲う。

 猛烈な雷鳴が轟き、やがてゆっくりと静寂が戻ってきたときには、リザードマンエリート以外のリザードマンたちは焼きトカゲと化していた。


「大石やるじゃん!」

「ですがまだリザードマンエリートが……っ!」

「シャアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 雷をまともに浴びながらも、さすがの頑強さで憤怒の咆哮を轟かせるリザードマンエリート。

 手にしていた槍をいきなり投擲。


 猛スピードで天野の脇を通り抜けていった槍は、高速回転しながら神宮寺、そして大石の近くも通過。

 そのまま後方にいた美里のところへ、真っ直ぐ飛んでいって――


「え?」

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