第23話 うーん、この脳筋……

「わうわう!」

「シャアアアアッ!」

「来たぞ。最初の一体だ」


 ダンジョンの狭い通路を通って、こちらに逃げてくるポメラハウンド。

 それを追いかけ、リザードマンがまんまと誘き出されてきた。


「はぁっ!」

「~~~~ッ!?」


 少し広い場所に出たところで。天野の剣がリザードマンの脳天に叩きつけられる。

 ひっくり返ったリザードマンは、あっさり絶命していた。


「さすが【剣聖】。リザードマンを瞬殺か」

「また次が来ます! 今度は二体同時です!」


 感心している俺を余所に、美里が叫ぶ。


「ここは僕に任せてくれ……っ!」


 そう言って前に出たのは大石である。

 いつもは頼りない担任教師だが、【大魔導士】としての自信か、堂々と杖を構えながら魔法を発動する。


「「ブシャアッ!?」」


 大石が放った雷撃が、二体のリザードマンを同時に黒焦げにしてしまった。


「「「シャアアアアアッ!!」」」

「もっと来ました! 全部で五、六体はいます!」

「アタシに任せといて!」


 一気に押し寄せてきたリザードマンの集団に、今度は神宮寺が威勢よく前に出る。

 手にした扇を翻しながら、【天舞姫】が優雅な舞を踊り始めると、どういうわけか、リザードマンたちの動きが一斉に鈍くなった。


 ふらふらとよろめき出すリザードマンたち。

 神宮寺がその舞によって、何らかの状態異常をもたらしたのだろう、


 すかさず飛び込んだ天野が、次々と斬り捨てていった。


 砦に乗り込むのではなく、リザードマンをダンジョン内に誘き寄せる。

 俺が提案した作戦が実行されることになり、今のところ順調に進んでいた。


 ちなみにアズは不参加だ。

 勇者たちのことをあまり好ましく思っていないらしく、同行を拒否したのである。


 ……アズによからぬ感情を抱いている大石もいるし、賢明かもしれない。


「丸くんの作戦、上手くいきそうですね。確かに敵地に攻め込むより、この方がずっと安全です。狭い通路ですし、リザードマンに取り囲まれる心配もありません」


 美里が褒めてくれる。


「さらに言えば、こちらに有利な地形をいくらでも作ることができるぞ。っと、今度はもっと大量に来てるな。よし、今だ」


 俺はリザードマンたちの足元の地面を、砂場に変えてやった。


「「「~~~~ッ!?」」」


 急に走り辛くなって転びそうになっているトカゲたちは、もはや格好の的だった。

 大石が離れた場所からどんどん攻撃魔法を放って仕留めていく。


「あなりん、いま何やったし!?」

「トラップを作ったんだ。といっても、ただの砂場だが、突然だと戸惑うよな」

「一瞬で作れるとか、マジ便利じゃん!」


 もちろん他にも、ダンジョン内で戦う大きな利点があった。

 それは魔物討伐によりポイントが貯まることだ。


 誰が倒したかにかかわらずポイントが入ってくるので、大変捗る。

 さすがにこのことは本人たちに黙っているけどな。


「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 とそこへ、通常のリザードマンより一回り以上も身体の大きなリザードマンが現れ、凄まじい雄叫びが洞窟内に響き渡った。


「なんかデカいのいるんですケド!」


 神宮寺が驚きの声を上げる。


「やはりリザードマンエリートがいましたか……っ!」

「リザードマンエリート?」

「リザードマンエリートはリザードマンの上位種で、危険度はBに迫るとされています! 砦の規模から考えて上位種のいる可能性が高いと、冒険者ギルドの受付嬢が言っていましたが……」


 危険度がBに指定されている魔物は、単体で小さな都市を壊滅させ得る力を持つらしい。

 だが迫りくる巨体を前に、天野はむしろ目を輝かせながら突っ込んでいった。


「ただのリザードマン程度じゃ、歯応えがないと思ってたんだ!」

「ちょっ、天野くん!? 一人では危険ですっ!」


 美里が慌てて止めようとするが、天野は聞く耳など持たない。


「心配は要らない! どんな強敵だろうと打ち倒していくのが勇者だからな!」


 うーん、この脳筋……。


 元々はリザードマンの砦に正面から乗り込もうとしていて、それを美里がどうにか説得して止めていたらしい。

 もし俺と出会っていなかったら、今頃は本当にそうしていた可能性がある。


「はぁ……このパーティ、纏めるのが本当に大変なんですよね……」


 どうやら美里も苦労しているようだ。

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