第22話 誘き寄せるんだよ

 続いて「フィールドC」を作成してみると、プールのようなものが出現した。

 長方形の堀のようなものに、たっぷり水が溜まっているのだ。


「肉食の魚とかワニが住んでいる危険な池に違いないわ!」


 もはやヤケクソ気味にアズが言う。


「全然そうは見えないけどな。ええと……『養殖フィールド』?」


 どうやらここでは勝手に魚が育つらしい。


「畑で野菜が採れる。果樹園で果物が採れる。そして養殖場では魚が採れる。……うん、言うことなしだ」

「ねぇ、ここ、本当にダンジョンよね……?」






 そうして順調にダンジョンを発展させていると、再び天野たちがやってきた。


「なんか木が生えてませんか!? あっちには池もあるんですけど!?」

「ああ。果樹園と養殖場で、新しく作ったんだ」

「そんなあっさり……」

「それより、約束通りリザードマンの砦の地下までダンジョンを広げたぞ。そっちはどうだ?」

「……は、はい、私たちもあれから少しはレベルアップできました」


 俺があげた魔物たちは元気にしているみたいだ。

 その可愛さからすでに有名になっていて、冒険者ギルドの屈強な男たちですら、触れ合いを求めて集まってくるほどらしい。


「偵察などにも役に立っていて、すごく重宝してるんだ! なっ?」

「くるる~」


 天野が頭を撫でると、肩に止まるエナガルーダが気持ちよさそうに鳴く。


「穴井くんっ……ぜひ、僕にも一匹いただけないだろうかっ?」


 唯一、魔物をあげなかった大石が血走った目で迫ってきた。


「その心は?」

「(モフモフの魔物をダシにして、異世界の美少女たちとお近づきになりたいのだっ!)」

「却下」

「まだ何も言ってないのに!?」


 がっくり項垂れる大石を余所に、俺は彼らに提案する。


「ちょっと距離があるから、こいつらに乗っていこう」

「「「くるるるるっ!」」」


 俺は移動手段としてエルダーエナガルーダ五匹を用意していた。


「「「でかくない!?」」」

「このエナガルーダを強化すると、上位種になったんだ。背中に乗せてもらえるぞ。ほら」


 俺はエルダーエナガルーダの背に飛び乗る。

 自分で走った方が早いが、今日はみんながいるから乗っていくとしよう。


 天野たちも見よう見まねで後に続いた。


「こ、この乗り心地は……っ!」

「ちょっ、これ、超気持ちいんですケドおおおおおっ!」

「まるで高級ベッドのようですね……はぅ……」


 大興奮の天野たち。

 一方、大石はまだ項垂れていたので、


「咥えて連れていってやれ」

「くるるぅ!」

「ぬおおおおおおおおおおっ!?」


 エルダーエナガルーダが大石の首根っこを咥え、そのまま先頭で走り出す。

 俺たちもすぐその後を追いかけた。


 しばらく走り続けたところで行き止まりが見えてきた。

 そこで停止しながら、


「この上が目的地になっているはずだ。念のため一度近くから地上に繋げて確認してみたから、間違いないと思う。それで、ここからどうするんだ? 四人だけで乗り込むのか?」


 それほど知能が高くないはずのリザードマンが作ったにしては、かなり大きくて立派な砦だ。

 少なくとも百体以上のリザードマンがいそうな規模だし、いくら勇者といえど、駆け出しの彼らがこの人数で攻め入って、無事で済むとは思えなかった。


「そうですね……リザードマンは危険度Cの魔物とされていて、今の私たちであれば、一体一体は余裕で倒せます。けれど百体を超えるとなると、正攻法では難しいでしょう。ですので奇襲を仕掛け、ある程度、集まってきたところで撤退。それを繰り返して、少しずつ敵の数を減らしていくという作戦です」

「なるほど」

「ちなみに、一度開けた出入口を、再び塞ぐことは可能ですよね?」

「ああ、もちろんだ。だが、それよりもいい手があると思うぞ」

「え、ほんとですか? それはどんな?」


 興味深そうに聞いてくる美里に、俺は自信満々で告げた。


「こっちが砦に乗り込むんじゃなくて、リザードマンの方をダンジョンに誘き寄せるんだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る