第20話 勝手に持ち上げないでよ!

 残念ながらダンジョンの外での俺は無力のようだった。

 魔物の身体を掘ることはできないし、それになぜか外に出ると異常に身体が重たい。


「いや、むしろダンジョン内にいるときに、身体が軽くなっているのか?」


 考えてみれば、王都からレジーナという街までは二十キロ以上も離れているらしいのに、俺は移動に十分もかかっていなかった。

 洞窟内を走っていてもまったく疲れないし、速度も明らかに出ている。


「アズ、ちょっといいか?」

「何よ?」


 怪訝な顔をするアズに近づいて、俺はその身体を持ち上げてみた。


「ななな!?」

「やっぱり軽いな。どうやらダンジョンの中だと腕力も強くなるみたいだ」

「勝手に持ち上げないでよ! ぎゃっ!」


 暴れたアズが罰を喰らってしまった。

 悪い悪い、と言いながら降ろしてやる。


 見た感じアズの体重は五十キロ近くあるだろうが、それを易々と抱え上げられたのだ。

 平均的な高校生男子の身体能力しかない俺に、こんな真似ができるはずない。


「これはダンジョンマスターの能力なのか?」

『いいえ、違います』


 システムが否定しているし、ダンジョンマスター由来のものではなく、やはり【穴掘士】のジョブによって得られる恩恵だろう。


「使える場面が限られ過ぎるから、確かに勇者としてはあまり使えないジョブかもな。けど、ダンジョンマスターにとっては相性がいいぞ」

「ということは、あんたも魔物討伐に協力できるってことね!」

「ん? それはこれまで通り、アズの仕事だが?」

「何でよ!?」

「俺はダンジョンの拡張で忙しいからな。アズにはできない仕事だろ?」

「うぅ……」


 ともあれ、これで万一、穴掘り中に魔物と遭遇しても、自力で処理できることが分かった。

 考えてみれば地中に棲息している魔物も当然いるわけで、地面の中だからって必ずしも安全ではないのだ。


「ところでふと思ったんだが……本当に俺以外に、穴を掘るのは難しいんだろうか?」







「わうわうわうわうわうっ!」


 ポメラハウンドが前脚で器用に土を掘っていく。

 しかも随分と嬉しそうだ。


 そして穴は見る見るうちに穴が広がっていった。

 さすがに俺が掘るよりもペースは遅いが、それでも十分な速度である。


「この掘った部分もダンジョンの一部に判定されるのか?」

『されます』


 ……どうやら必ずしも俺が掘らなくてもいいようだった。


「「「わうわうわうわうっ!」」」

「数を増やせば、当然、掘る速度もあがるよな」


 こちらに可愛らしいお尻を向けたポメラハウンドたちが、尻尾をふりふりしながら一生懸命に前脚で土を掘っていく様子に満足しながら、俺は頷く。


「「「ぷぅぷぅぷぅっ!」」」


 さらにアンゴラージたちにも試しにやらせてみたところ、ペースは遅いものの意外としっかり穴を掘り進めていった。


「そういえば、うさぎも穴を掘るんだっけ」


 さすがにエナガルーダやスモークトレントには難しそうだが、チンチライオンも高い穴掘り能力を示した。


「にゃにゃにゃっ!」


 そこで俺はモフモフの魔物たちを、魔物討伐組と穴掘り組に分けることに。

 魔物もどんどん増やして、ダンジョン拡張のさらなるペースアップに成功したのだった。


『おめでとうございます! レベルアップしました! 新たな機能が追加されました』


 そうしてレベルも5にアップ。


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 ステータス

 マップ

 迷宮構築

 魔物生成

 トラップ設置

 フィールド変更

 魔物強化

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「魔物強化?」


 新たに加わった機能に、俺は首を傾げる。


『生成済みの魔物を強化させることが可能です。なお、強化に必要なポイントは、魔物によって異なります』


 システムが教えてくれた。

 強化させたい魔物を見ると、どうやらポイントを確認できるらしい。


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 アンゴラージ強化(15)

 ポメラハウンド強化(30)

 エナガルーダ強化(45)

 スモークトレント強化(60)

 チンチライオン強化(90)

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「結構なポイントを要求されるんだな。まぁ、アンゴラージから試してみるか」


 アンゴラージを一匹呼んで、強化を使用する。

 するとアンゴラージの身体が光り出したかと思うと、どんどん大きくなっていって、


「ぷうぅぅぅぅ~~っ!」


 そこに現れたのは、通常のアンゴラージの五倍近いサイズの、巨大モフモフだった。

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