第19話 生き物の身体も掘れるらしい

 天野たちが帰っていったあと、俺はリザードマンの砦があるという場所に向けて、ダンジョンを掘っていった。

 そして目的地の地下らしきところまで辿り着く。


「この上に生き物がたくさんいる。それに、石を積み上げて作った壁のようなものがあるな」


 間違いない。

 リザードマンの砦だろう。


「あっという間だったな。じゃあ次は、こっちの方に掘っていくか」


 今度は別の街に向かって掘り進めることにした。

 美里の持つ地図を簡単に写させてもらったので、だいたいの位置が分かるようになっている。


 そうしてザクザク掘っていると、


「ん、何だ?」


 空間を発見してしまう。


 ちょうどダンジョンコアを見つけたときのような感じだ。

 あのときもコアの周辺には、大の大人が三、四人くらい入れるほどのスペースが空いていたっけ。


 ただし、今度はもっと細長い。


「洞窟? いや、それにしては狭いが……」


 首を傾げつつ、そこへ足を踏み入れようとした、まさにそのときだ。


「シャアアアアアアッ!」

「っ、魔物!?」


 前方の暗闇から現れたのは、全長三メートルはあろうかという蛇の魔物だった。

 どうやらここはこいつの巣穴だったらしい。


 牙を剥き出しながら、こちらに躍りかかってくる。


「くるるるっ!?」


 やばい。

 今ここに連れてきているのは、お供のポメラハウンドが一体だけ。


 当然、アズもいないし、俺はほとんど無防備の状態である。

 こんな危険そうな魔物に襲われたら一溜りもない。


「シャアアアアアッ!」


 ずどんっ!


「~~~~~~ッ!?」

「え?」


 今まさに俺の身体に噛みついてこようとしていた蛇の魔物が、急にのた打ち回りはじめた。

 よく見ると、その胴体の一部がごっそり抉り取られている。


「お前が何かやったのか?」

「わう?」

「違うのか。じゃあ、俺か? いや、咄嗟に手を振っただけだが……」


 先ほどの自分の行動を思い出してみるが、迫りくる蛇を前に、思わず空中を手で掻いただけである。

 ちょうど穴を掘るときの動きを、無意識にやってしまったのだ。


「待てよ? もしかして……」


 俺は同じ動作をもう一度やってみた。


 ずどんっ!


「~~~~~~ッ!?」


 すると今度は蛇の頭部に近い場所が消失し、蛇はそのまま絶命してしまった。


「うーむ。詳しいことは分からんが、どうやら土だけじゃなくて、生き物の身体まで〝掘れる〟ようになっているらしい」








 ダンジョンを広げていると、偶然ぶち当たってしまった蛇の魔物の巣穴。

 襲いかかってきた魔物の身体を、なぜかいつもの穴を掘る調子で掘ってしまった。


「どういうことだ? 実は【穴堀士】って、結構強いジョブだったりするのか?」


 気になったことは、実際に確かめてみないと気が済まない性格だ。

 俺はアズのところに戻って、モフモフたちが連れてくる外来の魔物相手に、色々と実験をしてみることにした。


「ブヒイイイイイッ!」

「せいっ!」


 ずどんっ!


「ブヒィイイイイイイイイイッ!?」


 右足を抉り抜かれたオークが、絶叫しながら地面に倒れ込む。


「ちょっ、今なにしたのよ!?」

「どうやら生き物の身体も掘れるらしい」

「しかも今、一切触れたりしてなかったわよね!?」

「そうだな。まぁ少し前からスコップなしで掘れるようになってたし」

「どういうこと!?」


 あれこれ試してみたが、どうやら土と同じように魔物の身体も掘ることができるようだ。

 だいたい二メートルくらいから遠距離掘削が可能で、距離が近づくほど一度に掘れる分量が増えていく。


 ただし、柔らかいものより硬いものの方が掘り辛い。

 これは土も同じなのだが、魔物でも骨などの硬い部分だと掘るのに力が必要だった。


 ちなみに頑張れば岩などでも掘れる。

 普通の土よりも時間がかかってしまうが。


 最後に、ダンジョンの外でも試してみることにした。


「グギャギャギャッ!」

「そりゃっ!」

「グギャギャ?」

「あれ? せいっ! そりゃっ! おらっ!」


 だがどんなに必死に手を振っても、目の前のゴブリンに何の異変も起こらない。

 虚しく何度も空中を搔き続ける人間を気味悪がったのか、ゴブリンは後ずさりしている。


「どうやら穴の中じゃないと使えないみたいだな」


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