第18話 この子が欲しいです
しばらくして天野が探検から戻ってきたところで、美里がある提案を口にした。
「ちょうど冒険者ギルドに依頼が出ていたんですけど、実はそのレジーナという街から数キロほどしか離れていない場所に、リザードマンという魔物が砦を作ってしまったそうなんです。かなり堅牢な作りのようで、冒険者も騎士団もなかなか手を出せずにいるようでして。もしこのダンジョンをその砦の内側に繋げることができるとしたら、討伐が容易になるかもしれません」
しかもそのせいで街道の一部が閉鎖され、物流などにも大きな影響が出ているらしい。
「場所は地図でいうこの辺りなんですが」
「なるほど。ちょっと掘り進めればいいだけだな」
「ほんとですか?」
「ああ。この距離なら一日も要らないぞ」
「一日ですか!?」
だがリザードマンは、ゴブリンやオークを上回る危険度Cの魔物らしい。
まだ駆け出しのパーティである彼らは、もう少しだけレベルアップしてから挑みたいそうだ。
「じゃあ、準備ができたらまた来てくれよ。こっちは砦までダンジョンを繋げておくからさ」
「よろしくお願いします」
そしていったん天野たちは地上に戻ることになったのだが、
「あなりん~♪」
アンゴラージを抱えた神宮寺が、なぜかやたら甘えるような声ですり寄ってくる。
「この子、うちにちょ~だい♡」
「別に構わないけど」
「って、さすがに無理かぁ~。ペットにしたかったんだけど……って、良いの!?」
「ああ。いくらでも作れるしな」
「マジで!? あなりん、超イケメンじゃん!」
抱き着いてこようとした神宮寺を、俺はさっと躱した。
「でも、外に連れだすことができるんですか? 確か、ダンジョンの魔物は、ダンジョンから出ることができないと教わったんですけど……」
「え!? みさっち、それマジ!? じゃあダメじゃん!?」
「いや、このダンジョンの魔物は自由に出入りできるぞ」
「そうなんですか……?」
「ちょっ、みさっち、驚かせないでほしいんですケド! ん~~、よかったねぇ、あんちょむ~♡」
「ぷぅ……」
当のアンゴラージはあまり乗り気ではないようで、どこか哀しげだ。
潤んだ瞳でこっちを見つめてきたが、今さら神宮寺の申し出を断るわけにもいかず、俺は首を左右に振った。
達者でな……。
「それなら……私も、この子が欲しいです」
神宮寺に続いて、美里までポメラハウンドを連れていきたいと言い出した。
「いいぞ」
「ほんとですか? やった……」
嬉しそうにポメラハウンドを抱き締める美里。
「わうわう!」
先ほどのアンゴラージと違って、ポメラハウンドは乗り気のようだ。
「二人とも羨ましいな!」
「天野も連れていくか?」
「えっ、いいのかっ?」
俺が軽く口笛を鳴らすと、一羽のエナガルーダが天野の肩に止まった。
「ありがとう! ぜひ大切にする!」
「くるる」
モフモフの頭を優しく撫でる天野。
エナガルーダも嬉しそうだ。
「では、僕はそちらのお嬢さんを……」
「あ?」
「い、いや、冗談だ、冗談……」
もちろん大石には何もあげなかった。
「今さらだが、その子たちをあげる代わりに一つだけ条件がある」
「条件、ですか?」
「このダンジョンのことは誰にも話さないでほしいんだよ」
「確かに、こんな可愛い子たちを貰えるって知ったら、人が殺到するっしょ!」
「それはそうですね」
別にそれが最大の理由ってわけではないんだが、まぁ納得してくれたならいいか。
◇ ◇ ◇
「わうわう!」
「ほんとに可愛い子ですね……あ、ちょっ、くすぐったいですっ」
幼馴染が作ったダンジョンを後にした住吉美里は、じゃれつくポメラハウンドを撫で回しながら、冒険者ギルドへと向かっていた。
天野と神宮寺も、それぞれモフモフの鳥と兎を抱えている。
……一人だけ何も貰えなかった大石は羨ましそうに彼らを見ていた。
「でも、ダンジョンの魔物は外に出ることができないって聞いていたはずなんですけど……私の勘違いですかね?」
「わう?」
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