第14話 超ウケる!

 アンゴラージが引きつけてきた侵入者たち。

 驚くべきことに、彼らは俺の知る人物たちだった。


「ちょっと待てって、アズ!」

「何で止めるのよ!?」


 にもかかわらず、撃退しようとしているアズを俺は慌てて制止する。

 すでに攻撃魔法を放ってしまったが……幸い二人は無傷のようだ。


「この声は……まさか、穴井?」

「マジ!? 何でこんなとこいるし!?」


 俺に気づいて目を丸くしているのは、一緒にこの世界に召喚されてきたクラスメイトたちだった。


 一人は天野正義。

 バスケ部のエースとして活躍する高身長イケメンで、名前の通り正義感が強い彼は、その見た目からして、もっとも勇者らしい勇者と言えるだろう。


 学校中の女子たちの憧れの存在らしく、去年のバレンタインのときには、チョコを渡したい女子たちで大行列ができたほど。

 ちなみに勉強の方はあまり得意ではない。


 そして勇者として与えられたジョブは【剣聖】。

 当然のごとくドラゴン級だ。


 もう一人は神宮寺詩織。

 校則など完全無視した派手な金髪と高校生とは思えない派手なネイルが特徴的な、いわゆるギャルだ。


 ただ意外と育ちがいいらしく、人を傷つけるようなことは言わない、良性のギャルである。

 明るい性格で、クラスのムードメーカー的なポジションでもあり、男子も女子も、あまり彼女のことを嫌っている人間を見たことがない。


 彼女が勇者として与えられたジョブは【天舞姫】。

 こちらもドラゴン級である。


「ホントにあなりんじゃん! ちゃんと生きてたし~っ!」


 はっきり俺だと分かると、神宮寺が嬉しそうに飛びついてきた。


 ちなみに「あなりん」というのは彼女が勝手に考えた俺のあだ名だ。

 ……彼女以外に呼んでるやつはいないが。


 なお、以前は「あなちん」だったが、さすがに卑猥なものを連想してしまうこともあり、別のものに変えてもらったという経緯がある。


「あんまりくっ付くなって……」


 ギャルだからスキンシップが激しいのだが、さすがに抱き着くのは勘弁してほしい。

 女子にしては背が高く、またやたらと発育もいいため、高校生男子としては色々と困ってしまうのだ。


「だって心配したっしょ! せめて一言くらい言ってから出ていけばいいのに、あなりん急にいなくなるし! あと、アタシのことはしおるんって呼んでって言ってるっしょ!」

「はいはい、しおるんしおるん」

「ぞんざい過ぎるんですケド!?」


 天野も苦言を呈してくる。


「みんなお前のことを心配してたんだぞ? 使えない勇者なんて判定されて、自暴自棄になって王宮を飛び出したんじゃないかって」


 どうやら俺は可哀想なやつと思われていたようだ。


「まぁ、みんなみたいに勇者として活躍はできそうにないし、それならせっかく異世界に来たんだし、異世界を旅行しようと思ってさ」

「旅行……? ぶふっ、超ウケる!」


 なぜか神宮寺が噴き出した。


「いや、さすがあなりんっしょ! そのメンタルにマジ惚れるんですケド! ぜんぜん心配する必要なかったじゃん!」

「ははっ、確かにそうだ! 考えてみたら、今まで穴井が自棄になってるところなんて、一度も見たことがないしな!」


 苦笑する天野。

 ていうか、俺、周りからどんなふうに思われていたんだ……?


 正直、俺はあまり人付き合いが得意な方ではなく、仲の良い友人は少ない。

 だがそれを悲観的に思ったことはないし、ただ平穏に過ぎていく毎日に、充実感を覚えながら生きている。


 ちなみに天野とは中学校から同じだったりする。

 別に友達というわけでもないが、天野は誰とでも仲良くできるタイプなので、たまーに話しかけてくることがあって、もちろんそのときは俺も愛想よく応じている。


 とそこで、天野たちが来た方向から、遅れて残りの二人が追い付いてきた。


「えっ、何でこんなところに丸くんがいるんですかっ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る