第13話 業務外っていうか……

「思っていたより深いな! もしかしたらただの洞窟じゃないかもしれないぞ!」


 何十メートルも先まで続いているその洞窟に、異世界から召喚された勇者、天野正義はワクワクしながら告げた。


「それって、まさか、ダンジョンってことですか……?」


 驚いた様子で訊いたのは、住吉美里。

 彼女もまた、異世界召喚された勇者の一人だ。


「え~、それマジ? だとしたらヤバいんじゃね?」


 髪の毛を金色に染めたギャルが、言葉とは裏腹に目を輝かせながら言う。

 これまた見た目とは裏腹に、彼女は神宮寺詩織という真面目そうな名を持つ。


「そうですね。ここはいったん引き返して、報告した方がいいと思います」


 と、冷静に撤退を提案する美里だったが、それを詩織が大きな声で遮った。


「でも、ここまで来たら行くっきゃないっしょ!」

「そうだな! なんたって、オレたちは勇者だ! ここで引き返すなんて勇者じゃない!」


 ギャルらしい能天気さで拳を突き上げる詩織に対し、正義が力強く頷く。


「え、いや、ちょっと! さすがに危険ですよ!?」


 常識人である美里は慌てて二人を止めようとする。

 しかしノリノリの彼らは、そんな彼女を無視して先へと進んでいこうとしていた。


「先生も何か言ってくださいよ!」

「ええっ? ぼ、僕……?」

「他に誰がいるんですか?」

「いや、だって……ここは異世界だし……その、業務外っていうか……」


 美里に詰められ、おどおどと答えるのは、この中で唯一の大人である大石諭史、三十八歳。

 化学教師である彼は、二年B組の担任も務めており、生徒たちと共にこの異世界に召喚されていた。


「……頼りなさ過ぎです」


 本来なら彼らを引っ張っていくはずの大人がまるで役に立たず、美里は大きく溜息を吐く。

 とそのとき、正義が何かを見つけて声を上げた。


「見ろ、何かいるぞ!」


 彼が指さす方向に、全員が一斉に視線をやる。

 するとそこにいたのは――



「ぷぅぷぅ」



「「「「めっちゃ可愛い生き物がいるううううううう!?」」」」


 白くて丸っこくてモフモフした、謎の生物だった。


「……ぷぅ?」

「もしかして、うさぎ?」

「キャーッ、超かわいいんですケド! しかも今の鳴き声!? かわいすぎでしょ!」

「アンゴラウサギに似てますね……でも、魔物かもしれないから気を付けないと」

「こ、ここがダンジョンなら、魔物だとしてもおかしくはないよね……」


 警戒する美里と化学教師だったが、ギャルが一目散に走り出した。


「アタシに抱っこさせて~~っ!」

「~~っ!?」

「あっ、何で逃げるし!?」


 迫りくるギャルに、謎のうさぎが慌てて逃げ出す。


「アタシ怖くなんてないから待ってってば~っ! てか、チョー速いんですケド!」


 うさぎの後を追うギャルを、他の三人も慌てて追いかける。

 そうしてしばらく洞窟内を駆け続けていると、広い部屋に出た。


「ちょっ!? なんか地面が!?」


 突然、何かに足を取られ、転びそうになる詩織。

 少し遅れて追いついてきた正義もまた、強制的に急ブレーキをかけられてしまう。


「何だ、この地面は……っ?」

「って、畑じゃん! 何でこんなとこに畑があるし!?」


 二人が走りにくい畑に戸惑っていると、鋭い声が聞こえてきた。


「灰になりなさい!」


 直後、矢のような炎が二本、猛スピードで飛んでくる。


「はぁっ!」

「あ、危ないし!?」


 しかし正義は剣を振るってそれを一蹴。

 詩織もまた手にした特殊な扇で、炎をあっさり掻き消した。


「防がれた!? くっ、やるわね!」


 炎が飛んできた方角から、女性のものと思われるそんな声が聞こえてくる。

 攻撃してきた以上、敵対的な存在であることは間違いないと判断して、二人はすぐさま反撃体勢に入った。


「ちょっと待てって、アズ!」

「何で止めるのよ!?」


 しかし続いて聞こえてきた少年の声に、正義と詩織は戸惑う。

 明らかに聞き覚えのある声だったのだ。


「この声は……まさか、穴井?」

「マジ!? 何でこんなとこいるし!?」


 驚く二人の前に現れたのは、勇者失格の烙印を押され、一人王宮から姿を消したクラスメイト、穴井丸夫だった。

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