第3話 誰かさんのせいでねっ!

 少女は名をアズリエーネというらしい。

 長いのでアズと呼ぶことにした。


「それで、アズは一体何者なんだ? 人間っぽくないけど」

「あたしは魔族よ」


 どうやらこの世界には、魔族という種族がいるらしい。

 ただし基本は魔界と呼ばれる場所に棲息していて、あまり人間と交わることがないという。


「迷宮神というのは、あたしたち魔族が崇めている神の一柱で、世界中のダンジョンを管理してるの。この迷宮神に認められて、ダンジョンマスターに選ばれるのは、魔族にとっては大きな栄誉なのよ。それなのに……それなのにっ!」


 赤い髪を逆立たせながら、ふるふると身体を震わせるアズ。

 まだ怒りが収まらないようだ。


 さらに詳しく聞いてみると、どうやらダンジョンマスターになれるのは、死んでしまった魔族だけらしい。

 命を落とし、迷宮神に選ばれた魔族が、ダンジョンマスターとして第二の人生を送ることを許されるのだという。


「つまりアズは一度死んだってことか」

「そうよ、残念ながら憎き天族どもとの戦いに敗れてね。だけどその戦いであたしは大きな戦功を上げたわ。きっとその成果を迷宮神に評価されたのよ」


 そして死後、実際にその迷宮神とやらに会ったらしい。


「……迷宮神はこう言っていたわ」




『一つだけ、気を付けてほしいことがあるんだ。もし君がダンジョンコアに触れる前に、他の誰かに触れられちゃったら、マスターの権限はその誰かのものになっちゃうんだよね。その場合、君は強制的に眷属になって、マスターをサポートし続けるしかない。ちなみにマスターを攻撃しようとしたら、手痛い罰を受けることになるから注意してね。まぁ、ダンジョンコアは誰も近づかないような場所にあるから、こんなこと万に一つもないだろうけどね!』




「その万に一つが起こっちゃったってことか」

「誰かさんのせいでねっ! あぎゃああああっ!?」


 また俺を攻撃しようとしたのだろう、突然アズが絶叫した。


「うぅ……こいつを殺すこともできないなんて……」


 罰があって助かったな。

 殺されてもまた生き返るとはいえ、なるべく死にたくはない。


「ひとまずアズのことは理解できた。次はそのダンジョンとやらだな」

「……それはあたしより、システムに訊いた方が早いと思うわ。あたしはあんまり説明とか得意じゃないから」

「頭悪そうだもんな」

「ぶっ殺すわよ!? あぎゃっ!?」


 やはりちょっと頭の弱い子のようだ。

 俺はシステムに教えてもらうことにした。


『はい。何なりとお聞きください』

「ちなみに、ずっと声だけでのやり取りなのか?」

『メッセージウィンドウの表示が可能です。表示しますか?』


 頷くと、目の前にゲームのようなウィンドウが出現した。


 そこに今のシステムのメッセージが表示されている。

 どうやら音声と文字の両方で確認することができるらしい。


『左上のメニューをご確認ください』


 視界の左上に新たなウィンドウが表示された。


-----------

 ステータス

 マップ

 迷宮構築

-----------


 まずはステータスとやらから確認してみる。


-----------

 レベル:1

 ダンジョンポイント:50

-----------


「ダンジョンにレベルがあるのか」

『ダンジョンを育てていくことで、レベルアップすることが可能です。また、レベルが上がれば、できることが増えていきます』

「このダンジョンポイントというのは?」

『迷宮構築や魔物生成などに必要となるポイントで、時間経過や侵入生物を倒すことで獲得できます』


 今度は「マップ」を確認してみた。

 すると視界一杯にそれらしき地図が出現する。


 地図は360度、好きな方向に回転させることができるようで、中心に楕円形の部屋と白い矢印があった。

 俺が身体の向きを変えると矢印が動くので、これが俺の位置を示しているらしい。


「ん? この斜めに長く伸びている部分もダンジョン?」

『はい』


 どういうわけか、俺が地上から掘り進めてきた箇所も、ダンジョンの一部として認識されているらしい。


「もしかして、自分で掘ればダンジョンを広げられるってことか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る