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 ――関わり合いになってはいけない。

 

 須藤紅音のメッセージに無視を決め込み、嵐が去るのを待とうと心に決めていた彼女の思考は、翌朝、バスを下りて高校の建物を視界に入れたその瞬間に音を立てて割れた。

 校門のところに毎朝挨拶をするために教師が二人、立っている。他にも生徒会から眠そうな目をして一人か二人、この挨拶運動に連れ出されているのだが、その隣にもう一人、真っ赤な髪をした明らかにうちの高校の生徒ではない女性の姿があった。須藤紅音だ。

 彼女はまるで毎朝そこで立って挨拶しているかのように馴染んでいる素振りで大声を張り上げていたが、明らかに異物だった。校門を潜る誰もが彼女を見て「おまえ誰だよ」という表情を浮かべている。

 だから美波もその不審者を避けるように俯き加減で小さく頭を下げ、通り抜けてしまおうとした。


「あ! 美波ちゃん。おはよ! ねえねえ昨日のLINEなんで無視したの? ひょっとして久しぶりだったから名前忘れちゃった?」


 バカみたいに明るい声で須藤紅音は美波の左肩をバシバシと音がするほどに叩いて笑う。


「何だよ、野田の友だちか?」


 担任の井崎はこの不審者をつまみ出すという教師の仕事を放棄し、何だか仲良さそうにしている。


「いや、彼女から聞いたんだが、野田。お前ってフリースクールのボランティアなんてやってたんだな。先生びっくりだ。野田はそういうことしないタイプだと思ってたが、人は見かけによらないもんだなあ」


 フリースクールなんて知らない。当然須藤紅音の作り話だ。


「先生な。野田はもっと自分を出すべきだと思うんだ。やれば出来るタイプだとにらんでるんだが、ちょっとシャイ過ぎる。社会に出ると大人しいばかりじゃあ損をする。別に髪を赤くしたりして目立てって言ってる訳じゃない。それでもしっかり自分てものがあるんだから、それを表現するための練習は今のうちからしておいた方がいいと思うぞ」

「はい……ありがとうございます」


 明らかに目立っていた。須藤紅音の存在だけでなく、次々と生徒が通学する中で担任教師が個人的な話をしているのだ。平凡な人生からは遠くかけ離れている。美波は自分の体温が一度は上昇しているのが分かった。顔が少し熱い。

 もう一度だけ深々と頭を下げ、逃げるようにして校舎へと向かった。背中から須藤紅音の脳天気な「また連絡するからね!」という声が響いたが、当然それに対して何かリアクションをするような失敗はしなかった。

 けれど翌日、またその翌日も、彼女は校門の前で先生たちに混ざっていた。よく見る白髪混じりの警備員までいる。何だか和やかな空気でその集団のところだけまだ桜が咲いているかのようだ。ちょうど須藤紅音の真っ赤なショートヘアが揺れると桜が風になびく様を思い起こさせる。


「美波ちゃん。おはよ!」

「……おはよう。あとでLINEする」

「え? ほんと?」


 これ以上被害を大きくする訳にはいかない。美波は平凡な人生を守る為、彼女と交渉の場を持つ決断をした。

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