第6話 劇団クローバーみつば感 リハーサル 二

 演出家の宮原は少し黙っていたが、微笑んで、

「いいねえ。いいよ。ねえ」

と高橋剣と山野玲奈の方に向かって言う。頷く高橋と玲奈。みこと佐織も嬉しそうに聞いている。玲奈が感心したように、

慈代やすよちゃんのテンポ、スピード感がたまらなくいいですね」

高橋も脱帽という感じだ。

「いいねえ。なんていうか観ている人の心から何かをえぐり出すような気迫のあるセリフ、英司に対して言うセリフの迫力がよかったよ」

頭を下げる慈代。

宮原がうららに言う。

「このユキナ役さあ。うららくんでいいんじゃない。ここ結構大事な場面だけど、啓子くんは、さっきのうららくんみたいなタイミングで英司を止めに入れるの?」

「大丈夫だと思います」

「そうなの?」

頷くうらら

「まあ、今度来てもらってよ。僕の方で代えたりする気はないけどさ、他のシーンもあるだろうから……いろいろな思いもあるだろうし、でも、うららくんの演技はもったいないよ」

少し考えるような顔をする宮原。

「英司もよかったよ。慈代くんが祭壇の方から去っていく。後ろから襲いかかるタイミング、さっきの感じでいいと思うよ。あの悲鳴は誰が叫ぶの今日は劇団のものにやってもらったけど、あれ結構タイミング大事だよ」

「三年生の松井紀子です」

「その彼女、悲鳴の練習は大丈夫? 本番はそでから叫ぶんじゃなくて、実際に舞台の上で結婚式に参列している中で叫ぶんだよね」

頷くうらら

「悲鳴のタイミングと大きさは結構難しいから、ちょっと軽く考えたりしがちだけど、一回一回大事に練習するようにね。本番で緊張して声が出ないとか、タイミング外しちゃうってことがないようにね」

頷く四人。

「今日はよかったです。また今度、全員代役なしでやってよ。全員で、ここに来てもらってもいいからさ」


高橋と玲奈が慈代のところに来る。

「すごいね。英司押し倒すとこなんて、なんか格闘技でもやってるの」

「私もすごいと思った。なんかドラマとかで警官が犯人を一瞬でねじ伏せるみたいな早わざ」

みこと佐織が拍手している。二人に微笑む慈代。

「格闘技なんて。そんな」

「でも、あそこでグダグダならずババッ! って感じで一瞬で英司をねじ伏せるから、テンポがすごいんだよ」

「うん、そうそう、見てて英司さんをケガさせそうでもないしね。変な不安っていうか、危な気あぶなげがないのよ。本当にすごい。声の通りもいいしね」

玲奈と高橋が晴美に、

「晴美ちゃんよかったよ。晴美ちゃんの方は晴美ちゃんの方で、こう何か魂抜かれたみたいな喪失感みたいなのが伝わっていいと思ったよ」

「よかった。よかった。でも晴美ちゃんの場合は全編通して気持ちを作っていかなきゃいけないと思うから。また今度、代役なしで全通し見せてよ。大学の方にも見に行きたいな。リハーサルのスケジュール連絡してよ。この作品、なんかここだけじゃなくて全部見たいよね練習段階から」

「え、でも玲奈さんが大学に来たら大騒ぎになりますよ」

「大丈夫、大丈夫。気付かれないって。私もスケジュールが許す限り見に行かせてもらいたいな。連絡お願いね」

「ありがとうございます」

晴美が玲奈にスケジュール帳を見ながら練習の予定を伝えていたようだ。お互いのスケジュール帳を見ながらしばらく話していた。

その日はその後、麗と宮原はこれからのスケジュール調整をしていたようだ。

 そして、劇団クローバーみつば感での練習は終わった。雅也、清田、桐原は高橋と玲奈と一緒に帰った。


 恵人が慈代を待っていたら、晴美とうららが慈代の家に泊まりに来るという。恵人は仕方がないから、今日は帰ろうと考えていたのだが、慈代から二人が来るので、少し買い物をして帰りたいから付き合ってほしいと言われた。結局、恵人も慈代のマンションに行くことになった。

 帰り際、慈代から、

「晴美は酒癖悪いから気を付けてね」

と言われた。しかし、実際のところ何をどう気を付けたらいいのかよくわからなかったし、酒癖が悪いというのも、どうなるのか想像がつかなかった。

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