第4話 劇団クローバーみつば感 山野玲奈

 慈代やすよ恵人けいとは晴美に案内されて『劇団クローバーみつば感』の稽古場の奥に通された。劇団の役者さんやスタッフの方々が何人かいる。練習がひと段落ついたようで皆飲み物を飲んだり話をしたりしている。その中にはテレビのドラマや映画などで見たことのある有名な俳優さんや女優さんの姿もあった。女優さんなどは思っていた以上に小柄で細く見える。

 演出家の宮原一美みやはらかずみは周りにいる役者たちと何か楽しそうに話していたが、慈代たちが入ってきたことに気が付いた。

「おはようございます」

慈代と恵人が挨拶する。

「おお、慈代くん来てくれたのか。なんだか晴美くんやうららくんに呼び出されたみたいだね。」

一緒にいた恵人に、

「君は、ええと」

小咲恵人こさきけいとと申します」

「そうそう、二年生の恵人くん」

名前を覚えていてくれたか、どうかは怪しいが顔は覚えてくれていたようだ。雅也と清田もいた。何か楽しそうに話していたが恵人に気付いてやってきた。

「おお、恵人。今日はいろいろ手伝ってよ」

雅也が肩を叩く。

「相変わらず慈代とべったりだな」

清田が足を蹴ってくる。

「いいんじゃない、俳優は恋してなきゃ……な」

と雅也がもう一度肩を叩いて自動販売機のある方へ行った。

 桐原が女優の山野玲奈やまのれなと何か話しながら歩いてくる。桐原が恵人に気付いた。

「おお、恵人も来たんだ……相変わらず慈代ちゃんとべったりだな」

清田が、

「いいんだよ。俳優は恋してなきゃ……な」

と恵人の肩を叩いて山野玲奈と話し始めた。玲奈は微笑みながら恵人に会釈してくれた。テレビでしか見たことがなかった女優がリアルに目の前にいるのが不思議な感じだ。

 玲奈は慈代と話し始めた。普通に女優の方から話しかけてこられる慈代がすごく見えた。

 桐原がジュースを片手に、

「今日は最後の場面を、少し先生に見てもらおうと思うんだ。恵人も手伝ってよ」

「ここの劇団の人の前でやるんですか?」

「ここでやるんだから、劇団の人も見るんじゃないかな、緊張する? それがいいんだよ」

「山野玲奈さんも見るんですか?」

「見るっていってたよ。玲奈さんも高橋剣たかはしけんさんも。緊張感半端ないだろ」


 宮原一美と話をしていた高橋剣がやってくる。

「こんにちは高橋です」

緊張したが、なんだか嬉しくなってきた『高橋ですなんて言われなくても知ってるよ』と思った。

小咲恵人こさきけいとです」

緊張のあまりフルネームで自己紹介してしまった。高橋が微笑む。

「恵人君。頑張っているようだね。今、二年生だって? 昨年の舞台観たよ。杉原君の友人の役してたよね。昨年三年生だった杉原君の……」

「え? そんなこと知ってくれていたんですか?」

高橋は頷きながら笑う。

「ああ、舞台の上で止まるところは気を付けた方がいいよ。あとセリフが流れないように」

「わかりました。意識します」

「また、気がついたらアドバイスするよ」


玲奈と話をしていた慈代が恵人を紹介してくれた。

「小咲恵人君です」

「よろしく。山野です」

玲奈が微笑む。

「剣さん見てくれるっていってたけど、今日は恵人さんの役のとこあるの?」

恵人は慈代の方を見る。急にここに来ることになった恵人は、今日、どのあたりの練習をするのか把握できてなかった。

「今日はたぶん恵人君のところはないと思うから見ててね」

「わかりました」

「でも、急に手伝ってもらうこともあるかもしれないから、そのときはお願いね」

「わかりました」

玲奈も微笑む。玲奈がやさしく言う、

「あんまり緊張しないでね。別にみんな鬼じゃないんだから。あと、こっちはプロなんだから」

『大丈夫』という意味を含めてウインクして微笑む玲奈にドキッとした。

 そのあと、演劇部のものは演出家の宮原一美のもとに集められた。今日、練習する場面をもう一度確認した。

 今日はマサトの妹ユキナ役の春川啓子はるかわけいこが来ることができなかったためユキナ役は代役でうららがすることになった。今回の舞台ではうららは脚本を手掛けていることもあり、すべてのキャストの代役ができる。また、脚本・演出に専念し舞台に出演しないという彼女は今日のような代役が必要な時すぐに代わりができる。

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