第1話 始まる舞台練習
舞台に向けた練習が段々本格的になってくる。今まではそれほどにも思わなかったが見ていると台本をずっと読み続けている
台本に集中しているときは
いつだったか『役を演じている』とか『どんな風に演じようか』などと『演じるなんて言っている段階で違う』と彼女は言った。演じるのではなく『その人になる』のだという。
今回の舞台では慈代はエリコという主役の妹の役なのだが『エリコを演じる』のではなく『エリコとは私であり、私こそがこの世界で唯一のエリコという存在にならなければならない。私が慈代であってはいけない』そんなことを彼女は言っていた。
優一としては慈代でいて欲しいところであるのだが、その辺の切り替えはすごいもので、そんなことを言っていても二人でいるときは、普通に今まで通りの慈代だった。
慈代は付き合いだしてから特に思うようになったのだが、普段家にいるときも、稽古場でも、何かしらストレッチのようなことを常にやっている。別にバレリーナでも体操選手でもないが、座っているときは両足を開脚して
稽古場で、みんなで発声練習をしても、慈代と晴美、
今回、
慈代も気に掛けてくれているが演出が
セリフについては『この場合はこう言った方がいい』などという具体的なことは言わないが、こういう言い回しをしたら、こんな風に聞こえるとか、こういう言い方をすると次にセリフを言う人が、どう受け取るか考えて言った方がいいとか、一般的な演技についてのレクチャーをしてくれる。
家でセリフの練習として慈代が付き合ってくれるときも「できるだけセリフを自分の気持ちに落とし込むようにした方がいいかも」となんだか抽象的なことを言われる。一緒にいるのだから相手役のところを慈代が読んでくれたらいいと思うかもしれないが、人のセリフを慈代が読んで練習していると本番で演じるときイメージが違って演技がチグハグになるかもしれないという。今のところ恵人にはそこを意識しなければいけないほどの演技力はなかったのだが……
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