* * *

 ――回目。

 どこかの世界線の屋上で彼に背中を押されてから、私はこのループを回避する方法がどこかに存在するのではないかと模索するようになった。

 あらゆる文献や書籍を漁って、手掛かりを探る。様々なアプローチでこのループを解明しようと試みた。


 繰り返す日々の中で分かったことが幾つかある。

 それは、私の行動によって事象に変化が生じるという事だ。

 私の対応次第で、彼のリアクションも変わる。

 どの世界線でも背中を押してくれる訳ではなかった。

 冷たくあしらわれる世界線もあれば、軽薄に私の身体に触れようとしてくる世界線もあった。

 手探りの毎日だった。


 進展しない日々に、心が折れそうになる事もあった。

 しかし、そんな私にとって唯一、救われる瞬間は、彼――緑ヶ丘続との会話だった。


「私の名前は――豊四季波」


「…………」

 文字通り「初めまして」から始まる彼との関係は、時に煩わしく思うこともあったけれど。

 それでも、どれほどの世界線を繰り返しても、必ず彼を探すようになっていた。

 それが《毎日》の日課になりつつあった。


 もどかしかった。

 私だけが、積み重ねていく時間。

 彼には、積み重ならない時間。

 そこには、過去も未来も存在しなかった。

 ただこの瞬間にしか交錯しない私と彼――。

 私の心は少しずつ、壊れていく。

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